曽蔭権

曽蔭権（ドナルド・ツァン）：香港の激動期を率いた政治家

曽蔭権（そう いんけん、英語名：ドナルド・ツァン、Donald Tsang、1944年10月7日 - ）は、香港の政治家であり、第2代香港特別行政区行政長官を務めました。そのキャリアは、イギリス統治下の香港政庁での公務員から始まり、財政長官、政務長官を経て行政長官へと至る、香港の激動期を象徴する人物です。

生い立ちと初期のキャリア

1944年、曽蔭権は香港で生まれました。1964年に香港華仁書院大学予科を卒業後、香港大学建築学科に入学しますが、経済的な理由で中退。その後、ファイザーの販売員を2年間務めた後、1967年に香港政庁に入庁し、公務員の道を歩み始めます。当初はノンキャリアの二級行政主任でしたが、1971年に幹部候補である政務主任試験に合格したことを機に、着実に昇進を重ねていきました。

経済・財政分野での活躍

曽蔭権は主に経済畑を歩み、1977年にはアジア開発銀行に出向。この経験が評価され、1981年にはハーバード大学ケネディ・スクールに留学し、行政学修士号を取得しました。また、香港中文大学、香港理工大学、香港大学から名誉博士号を授与されています。その後、通商局長など、経済・財政政策の専門官を歴任し、1995年には華人として初めて財政長官に就任しました。

香港返還とアジア通貨危機

1997年の香港返還前日には、イギリス政府からナイト・コマンダー（KBE）を受勲し、「サー」の称号を得ました。返還後も財政長官を留任し、アジア通貨危機の際には香港ドルの防衛に尽力しました。2001年には、政務長官の陳方安生が辞任した後任として、特区政府No.2のポストに就任します。2002年には、大紫荊勲章（GBM）を受勲しました。

行政長官への道

2005年3月、董建華が行政長官を辞任すると、曽蔭権は香港基本法の規定により行政長官代行に就任します。同年7月に行われる補欠選挙に立候補するため、政務長官および行政長官代行職を辞任。その後、中央政府の意向もあってか、796名の選挙委員のうち674人の推挙を得て、自動的に次期行政長官に当選しました。2005年6月21日、中華人民共和国国務院の温家宝総理より正式に行政長官に任命され、24日には北京で宣誓を行い、行政長官としての職務を開始しました。

行政長官としての政策と再選

行政長官就任後、曽蔭権は立法会に政治体制改革政府案を提出。選挙委員会の定員増加や立法会議員選挙における議席数の増加を目指しましたが、普通選挙の早期実施を求める民主派議員の反対により、法案は否決されました。2007年3月25日に行われた第3期行政長官選挙では、複数候補による選挙となり、649票を獲得して再選を果たしました。

不正行為と訴追、有罪判決

2015年10月、廉政公署（香港反不正独立委員会）は、曽蔭権を行政長官在任中の不正行為2件で訴追。2016年には収賄で追加起訴されました。曽蔭権は全ての訴因について無罪を主張しましたが、2017年1月10日から香港高等法院の原訟法廷で陪審による裁判が開始されました。同年2月17日、陪審は1件の不正行為（在任中に、行政長官として許認可権限を有していたテレビ局の大株主との取引関係を報告していなかったこと）について有罪、もう1件について無罪との評決に達しました。収賄については評決に達することができませんでした。2月22日、高等法院原訟法廷は有罪とされた不正行為に対し、20ヶ月の禁錮刑を言い渡しました。

人物像

曽蔭権は、トレードマークである蝶ネクタイを愛用していたことから、「蝶ネクタイのツァン（煲呔曾、Bow-Tied Tsang）」という愛称で親しまれています。8人兄弟の長男で、父親と弟も香港警察の警察官でした。特に弟の曽蔭培は、香港警察トップである警務処長を務めています。夫人はマカオ出身の曽鮑笑薇で、1969年に結婚しました。敬虔なカトリック教徒であり、毎朝ミサに参加することで知られています。

また、プライベートを含め訪日歴は多数あり、財務長官・政務長官として公式訪問し、行政長官としては初めて日本を公式訪問しました。一方で、香港ラジオ局の番組で、「人民が極端に走った場合、文化大革命のような運動が出現する」と発言し、民主化運動を文化大革命に例えたことで、各界から批判を浴びました。

関連項目

積極的不介入

脚注

香港特別行政区行政長官公式サイト

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