穐近祐

穐近 祐（あきちか ゆたか）

1904年に鳥取県倉吉市に生を受けた穐近祐は、日系アメリカ人として、戦後の日本において福音宣教の働きを力強く推進し、イエス福音教団の創設者となった人物です。その生涯は2000年7月17日に日本で閉じられました。

1919年、当時15歳だった彼は、新たな生活を求め単身アメリカ合衆国へ移住しました。異国の地で同じ日系人の女性と結ばれ、後に教団の後継者となる息子・祈を含む一男一女を授かります。アメリカ滞在中、彼はラジオから流れるデハーン博士の伝道に触れ、深い霊的な回心を経験しました。

太平洋戦争が終結した1945年8月、穐近の心には母国日本の人々への福音宣教の思いが燃え上がります。しかし、当時の日本への渡航は厳しく制限されていました。彼は諦めず、連合国軍最高司令官であったダグラス・マッカーサー陸軍元帥に手紙を送り、日本での宣教活動の許可を直接懇願しました。この熱心な訴えは実を結び、マッカーサー元帥から日本での宣教を許可する旨の電報を受け取ることになります。これは、戦後日本のプロテスタント宣教史における重要な出来事の一つと言えるでしょう。

1947年1月、アメリカのデンバー市において「極東福音十字軍」が組織され、穐近夫妻はその最初の日本向け宣教師として選ばれました。そして同年10月、サンフランシスコ港を出港し、遠い海を越えて横浜港へと到着、いよいよ日本での本格的な宣教が始まります。日本に上陸した穐近は、極東福音十字軍（後にセンド国際宣教団となる）の一員として、精力的に福音を伝え始めます。彼は当時の日本で珍しかったジープを使用し、新宿駅前などの街頭で力強い説教を行いました。また、東京都杉並区にある、小説家・菊池寛の旧宅にほど近い場所で集会を開いていました。この集会に、当時近隣の日本女子大学で教鞭をとっていた斉藤清子氏（後に伝道者・滝元明氏の夫人となる）が参加し、穐近のメッセージに感銘を受けて信仰に入ります。斉藤氏は教職を辞し、穐近の活動の協力者となり、彼女の影響で多数の女子大学生たちが集会に集うようになりました。

その後、活動の拠点を東京都東久留米市に移します。ここでは、かつて森永ミルクのプラントとして使われていた建物が集会場所となりました。同じ東久留米には、当時東京女子高等師範学校（現お茶の水女子大学）の付属高校教師であった羽鳥明氏が主宰するバイブルクラスがあり、そこで信仰を持った人々が穐近の集会に紹介されるようになります。

1949年2月13日には、後に日本の福音派を代表する伝道者の一人となる滝元明氏が、3人の友人と共に東久留米の穐近の教会を初めて訪れました。穐近は滝元氏との出会いを大切にし、同年5月30日には彼に洗礼を授けます。滝元氏が伝道のために農業研究所の職を辞してからは、約3ヶ月間、穐近の自宅に住み込み、寝食を共にしながら伝道の訓練を受けました。この時期には、滝元氏の他にも、大原俊夫氏や丸山軍司氏といった、後に重要な働きを担う献身者たちが穐近の元で共に生活し、働きに加わっています。

1950年、穐近は極東福音十字軍からの独立を果たし、自らが率いる「イエス福音教団」を設立しました。同年、洗礼を授けた滝元明氏は郷里である愛知県へと戻り、そこを拠点として福音伝道を開始しました。

穐近は自身の教団の働きに加え、日本の福音派全体の働きにも積極的に協力しました。特に、1960年に太平洋放送協会（PBA）が新しいスタジオを建設する際には、その広大な用地の整備作業をほとんど一人で行ったという逸話も残っています。以来、彼はPBAの働きを長年にわたり支援し続けました。また、1970年には全日本リバイバル・ミッションの顧問を務めるなど、教団を超えた協力関係にも貢献しました。

晩年には、教団内部で信仰的な見解の違いが生じます。1992年、聖霊の第三の波と呼ばれる聖霊運動に関する考え方の相違から、長年苦楽を共にした滝元明氏、田中政男氏らがイエス福音教団から離れるという出来事がありました。

穐近祐は、戦後の混乱期から日本の復興期にかけて、日系アメリカ人宣教師として献身的に福音を伝え続け、イエス福音教団という強固な伝道組織を築き上げた功績は大きく、日本のプロテスタント史において特筆すべき人物の一人です。2000年、日本にてその波乱に富んだ生涯を終えました。彼の著書には「土方のおやじ」があります。その生涯と働きは、多くの人々に感銘を与え続けています。

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