穴守駅

穴守駅：消えた空港線の終着駅

大田区羽田にあった穴守駅は、京浜急行電鉄空港線の歴史において特筆すべき存在です。現在では空港敷地内に痕跡すら残っていない同駅ですが、かつては多くの参拝客で賑わい、そして空港拡張という時代の波に呑まれた、ドラマチックな歴史を持つ駅でした。

穴守線の開通と穴守駅の誕生

1902年、京浜電気鉄道によって穴守線が敷設され、現在の天空橋付近に穴守駅が開業しました。当初の目的は、羽田の穴守稲荷神社への参拝客輸送でした。しかし、駅と神社の位置関係は当初やや不便でした。神社は海老取川を挟んで駅とは反対側に位置していたため、参拝客は川を渡る必要があったのです。

駅の移転と発展

より利便性を高めるため、1913年には駅は800メートルほど終点側に移転しました。旧駅跡地には翌年、羽田駅（後に稲荷橋駅、現在の穴守稲荷駅に改称）が開業しています。移転後の穴守駅は、海老取川を渡り、神社の鳥居前に至るまで延伸されました。これにより、参拝客は容易に神社へアクセスできるようになりました。

戦災と空港拡張による廃駅

1917年の台風による大津波で大きな被害を受けながらも復旧した穴守駅でしたが、第二次世界大戦後、運命の歯車が回り始めます。GHQによる東京国際空港の拡張計画によって、海老取川以東の土地が接収されたのです。その中に含まれていた穴守駅は、1945年に営業を休止しました。

戦後、接収が解除された後も、穴守駅は復活しませんでした。1956年には、休止区間の一部である穴守稲荷駅～羽田空港間の運行が再開されましたが、穴守駅は休止のまま。そして1971年、残りの休止区間も正式に廃止され、穴守駅は完全に歴史の舞台から消え去ったのです。

現在の様子と歴史的意義

現在、穴守駅の跡地は東京国際空港のB滑走路南端付近にあたります。かつての鉄道施設の痕跡は全く見当たりません。しかし、穴守駅は、羽田地域の開発と交通の歴史を語る上で非常に重要な存在でした。穴守稲荷神社へのアクセスという宗教的な側面と、空港開発という近代化の側面、そして戦争と戦後の混乱という社会情勢が交錯した、歴史の縮図とも言える存在だったと言えるでしょう。

穴守駅の存在は、近代日本の発展と、その中で失われたものへの静かな証言であり続けています。その歴史を理解することは、現代社会を理解する上で重要な一歩となるでしょう。

参考文献

* 『京急グループ110年史 最近の10年』京浜急行電鉄、2008年

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