空飛ぶ戦艦

未製作に終わった特撮映画企画『空飛ぶ戦艦』

『空飛ぶ戦艦』（そらとぶせんかん）は、東宝が1966年に企画した特撮映画作品です。特撮の神様と称される円谷英二が長年温めていた「空中戦艦」という独自のアイデアを出発点として構想が進められましたが、諸般の事情により製作には至らず、幻の企画となりました。

企画の経緯

本作の企画は、円谷英二が抱いていた空中を航行する巨大兵器というコンセプトに基づいています。この構想をもとに、脚本家の関沢新一がプロット集をまとめ上げました。1966年には、関沢によって詳細な第1稿脚本（全126ページ）が執筆される段階まで作業は進行しました。脚本には和田嘉訓も共同で関わる予定でしたが、第2稿の存在が確認されていないことから、この第1稿の完成をもって製作中止の決定が下されたものと推測されています。

構想されていた物語

物語の舞台は現代世界であり、地球征服を目論む秘密結社「NOO」が主な敵として設定されていました。NOOは南米アマゾンにその本拠地を構え、世界各地で破壊活動を展開し始めます。その活動の一環として、世界中の海域にNOOの潜水艦が出現し、脅威をもたらします。

これに対し、人類の希望となるのが国際連合宇宙海軍に所属する万能戦艦「スーパーノア」です。この超兵器を率いるのは、かつて不遇のうちに世を去った天才科学者の遺児でした。世間から正当な評価を得られなかった父の技術を受け継いだ娘が、スーパーノアを指揮し、秘密結社NOOの野望を阻止すべく立ち向かうというストーリーが構想されていました。

後世への影響

『空飛ぶ戦艦』の企画は、製作は実現しませんでしたが、そのアイデアやコンセプトは後の様々な作品に影響を与えました。特に、「世界征服を企む秘密組織と、それを迎え撃つために結成された特殊部隊と、その保有する空飛ぶ大型メカ」という物語の骨子は、後に円谷プロダクションが制作した特撮テレビドラマ『マイティジャック』（1968年）に色濃く継承されています。

また、本作のためにデザインされたメカニックも、その後の作品に転用されました。当時、特撮美術で知られる小松崎茂は、東宝の別の潜水艦メカ「轟天号」に可変翼を追加したようなイメージの空中戦艦「スーパーノア」のデザイン画を描いていました。さらに、デザイナーの成田亨も「空中戦艦」の設計図を起しており、これらのデザインには、旧来の巨砲主義からミサイルを主武装とする新時代の兵器への転換期における発想が見られます。具体的には、巨大な砲塔を持たず、艦橋部分も流線形を採り入れた先進的なデザインでした。このデザイン哲学や具体的な形状は、後に『ウルトラセブン』（1967年）に登場する主力戦闘機「ウルトラホーク1号」や、『マイティジャック』の主役メカ「マイティ号」のデザインの原型、あるいは影響を与えた要素として流用されています。

さらに、書籍『ゴジラ画報』では、東宝の特撮映画『緯度0大作戦』（1969年）についても、本作の企画から何らかの影響を受けている可能性が示唆されています。

企画に関わった人々

本作の脚本は関沢新一と和田嘉訓が担当する予定でした。メカニックデザインには小松崎茂と成田亨が参加し、デザイン画を制作しています。

また、製作が実現していれば、以下のスタッフが主要な役割を担う予定でした。

製作総指揮：田中友幸
音楽：伊福部昭
監督：本多猪四郎
企画、特技監督：円谷英二

これらの名前からも、もし本作が完成していれば、東宝特撮映画史において重要な位置を占める作品となったであろうことがうかがえます。未完に終わった企画ではありますが、そのコンセプトとデザインは、後の特撮作品に形を変えて受け継がれ、影響を与え続けたのです。

もう一度検索