和田嘉訓

和田嘉訓（わだ よしのり）は、1935年に愛媛県松山市で生まれ、2012年に76歳または77歳で亡くなった日本の映画監督、脚本家です。幼少期の一部を中国天津で過ごし、松山市で青春時代を過ごしました。教育者だった父の仕事の関係で中国に滞在した後、日本の松山に戻り、松山新田高校を卒業しています。東京大学教育学部を卒業後、1958年に東宝へ入社し、映画製作の道に入ります。

東宝では助監督としてキャリアを積みました。1960年公開の稲垣浩監督作「ふんどし医者」で初めて監督助手の名がクレジットされ、翌1961年には黒澤明監督の不朽の名作「用心棒」にもフォース助監督として参加しています。この助監督時代には、古澤憲吾や坪島孝、杉江敏男といった先輩監督たちの下で研鑽を積み、「クレージー映画」シリーズにも携わりました。東宝から発売されているDVDなどに収録されているメイキング映像では、「用心棒」や「椿三十郎」の撮影風景の中で、和田氏が役者に血糊を施すといった若き日の活動を垣間見ることができます。

満29歳を迎える1964年、和田氏は自ら執筆したオリジナル脚本による作品「自動車泥棒」で劇場用映画の監督に異例の抜擢を受けます。同年10月に公開されたこのデビュー作は、アヴァンギャルドな手法を取り入れた意欲的な作品として、彼の映画への情熱を示すものでした。前年末までサード助監督だった和田氏の監督昇進は、同時点で彼より助監督としての経験が長かった多くの先輩たちよりも早いものであり、当時の映画界では珍しいことでした。しかし、公開時期が東京オリンピックと重なったこともあり、「自動車泥棒」の観客動員は伸び悩みました。監督デビュー作の不振後、和田氏は約3年間にわたり劇場用映画の監督から遠ざかることになります。

沈黙を余儀なくされた後、和田氏は1967年に坪島孝監督の「クレージー黄金作戦」において、「ホテル・リヴィエラ・ショー」のシークエンス演出を任され、再び活動の機会を得ました。同年には「ドリフターズですよ!前進前進また前進」で再び監督として起用され、この「ドリフターズですよ!」シリーズでは合計3作品のメガホンをとることになります。この「前進前進また前進」のクランクイン当日である1967年8月31日早朝には長男が誕生しており、キャスト・スタッフ一同が撮影を早めに切り上げて長男の誕生を祝う盛大な宴が催されたという心温まるエピソードも残されています。

その後も、当時の人気グループサウンズであるザ・タイガース主演の「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」（1968年）や、人気コメディアンのコント55号主演「コント55号 世紀の大弱点」（1968年）など、時流に乗った娯楽作品を手がけました。1970年公開の「銭ゲバ」が、結果的に和田氏にとって最後の劇場公開監督作品となります。

1972年、和田氏は「銭ゲバ」を製作した近代放映で、新作「脱出」を監督しますが、この作品は東宝によって公開が見送られました。内容はピート・マック・ジュニア主演で、公開されない理由があさま山荘事件に類似しているということだけだったとされています。この一件が決定打となったか、和田氏は間もなく映画界に区切りをつけ、東宝を退社してソニーに入社します。ソニーでは五反田本社やCDIヴィデオ・センターにて、広報部門で多数の映像コンテンツの企画・制作を指揮し、1985年に開催されたつくば万博におけるソニーのパビリオン「ジャンボトロン」では総指揮を務めるなど、映像分野でその才能を活かし続けました。

晩年はソニーでの活動を経て、2012年7月12日に心筋梗塞のため逝去しました。享年78でした。東京国立近代美術館フィルムセンターには、彼が監督した「ザ・タイガース 世界はボクらを待っている」のフィルムが現存しており、助監督として参加した「用心棒」、「ニッポン無責任野郎」、「クレージー黄金作戦」も同センターに所蔵されています。和田嘉訓は、短期間ながらも東宝の助監督時代に巨匠たちの下で学び、革新的なデビュー作や人気シリーズ、アイドル映画などを手がけ、映画界を離れてからも映像分野で功績を残した人物として記憶されています。

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