空飛ぶ霊長類仮説

空飛ぶ霊長類仮説とは

「空飛ぶ霊長類仮説」とは、オオコウモリがコウモリの一種ではなく、霊長類の姉妹群であるという、1986年にジャック・ペティグリューによって提唱された仮説です。この仮説は、発表当初から大きな論争を呼び、現在でも決着を見ていません。

仮説の背景

ペティグリューらがこの仮説を提唱する以前から、霊長類、ツパイ、ヒヨケザル、コウモリを同じグループに分類する考え方は存在していました。生物分類学の祖であるカール・フォン・リンネも同様の提案をしています。

論争の経緯

この仮説を支持する研究者は少なく、ペティグリュー自身とその共同研究者、一部の研究者にとどまります。

ペティグリューの主張

ペティグリューは、オオコウモリの網膜と脳の構造が、他の哺乳類には見られない霊長類に似た特徴を持つことを指摘しました。彼は、オオコウモリ、ヒヨケザル、霊長類が、共通の祖先から進化したと主張しています。また、ココウモリが霊長類に近いとする説には否定的で、霊長類・オオコウモリとココウモリが最初に分岐し、その後、霊長類とオオコウモリが分かれたと唱えました。オオコウモリとココウモリの形態が似ているのは、共通の祖先を持つからではなく、収斂進化の結果であると説明しています。

反論

多くの研究者は、DNA解析の結果から、オオコウモリとココウモリは単系統であり、オオコウモリと霊長類の神経学的類似性は収斂進化によるものだと主張しています。また、オオコウモリの一種であるルーセットオオコウモリには、ペティグリューが根拠とする脳の構造が見られないという反論もあります。

ペティグリューの再反論

ペティグリューらは、コウモリのDNAが特殊な塩基組成を持つために、オオコウモリとココウモリが遺伝的に近いと誤認されるとする「飛翔DNA仮説」を提唱しました。

その後の研究

その後の研究でも、オオコウモリが霊長類と共通の祖先から分岐した可能性を示唆する報告がある一方で、DNA解析の結果からコウモリの単系統性を支持する研究結果も多く発表されています。

近年では、オオコウモリの全ゲノム配列の解読により、分子系統解析からこの仮説は否定され、オオコウモリはココウモリから派生したとする説が有力です。

現在の状況

「空飛ぶ霊長類仮説」は、現在では学説として支持されていません。しかし、この仮説をめぐる議論は、コウモリの進化や哺乳類の系統関係の研究に大きな影響を与えました。

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