突撃! ヒューマン!!

『突撃! ヒューマン!!』は、1972年 10月7日から12月30日まで、日本テレビ系列で毎週土曜日の午後7時30分から放送された、全13話構成の特撮ヒーロー番組です。この作品の最大の特徴は、当時のバラエティや歌番組で一般的だった「公開録画」という手法を取り入れた点にあります。

企画背景と異色の試み

1970年代初頭に巻き起こった変身ブームを受け、日本テレビは空前の人気を誇っていた『仮面ライダー』に対抗すべく本番組を企画しました。企画の源流は、成田亨氏が過去に構想しながら実現に至らなかった特撮企画に遡ります。成田氏は自身のデザインしたキャラクターを映像化したいという強い思いから、この企画の実現に尽力しました。企画当初のタイトル案は『強人！スカイダー』でした。

主役の岩城淳一郎役には、『仮面ライダー』でアクションを担当していた大野剣友会の中村文弥氏に出演が打診されましたが、「仲間が出演する番組の敵には回れない」として辞退。そのためオーディションが実施され、元グループ・サウンズ「オックス」のメンバーで、俳優に転身したばかりの新人、夏夕介氏が抜擢されました。このオーディションには、新人時代の松田優作氏も参加しており、夏の記憶によれば、松田優作氏は「身長が高く、声も通り、一際目立つ存在だった」といいます。

本作の最大の特徴は、同時期の人気番組『8時だョ!全員集合』などと同様に、客席のある舞台で上演し、その様子をテレビ放送するという形式をとったことです。これはヒーロー番組としては極めて異例の試みでした。「異星から来たヒーローが地球を守るために侵略者と戦う」という基本的な筋立ては、他の特撮ヒーロー作品と共通していましたが、舞台上演であるがゆえの制約が多く存在しました。例えば、火や水を使った派手な特撮演出が難しいため、当時の最新の舞台技術、例えばイリュージョンやステージマジック、スモーク、特殊な装置や照明などを駆使して、あくまで「舞台劇」としての面白さを追求しました。収録は関東各地の市民会館などで行われました。

物語と独特の演出

物語は、著名な体操コーチだった岩城淳一郎が、子供たちを鍛え、迫りくる悪の侵略者と戦う力を身につけさせるために全国の小学校を巡る旅に出るところから始まります。実は岩城の正体は、宇宙からの脅威を察知して地球にやってきたヒューマン星人でした。彼の予言通り、キングフラッシャー率いるフラッシャー軍団による地球侵略が開始されます。岩城は、旅先で子供たちを指導しつつ、ピンチに陥ると超人ヒューマンに変身し、怪獣たちと戦います。彼の戦いは、怪獣新聞の記者やカメラマン、そして兄を追う弟の淳二郎にも協力されます。

淳一郎＝ヒューマンはキングフラッシャーを倒しますが、後任のグランドフラッシャーによって重傷を負い、戦線を離脱します。ピンチを救うべく、淳二郎がヒューマン2号として立ち上がり、グランドフラッシャーに立ち向かいます。やがて傷を癒したヒューマン1号も復活し、二人のヒューマンが力を合わせて最終決戦に挑むという展開が描かれました。

毎回の放送は、体操教師・岩城淳一郎の体操教室が怪獣に襲撃されるという基本プロットで進行します。怪獣はステージマジックを用いて子供たちや仲間たちに危害を加え、岩城が反撃しますがピンチに陥ります。ここで、岩城がヒューマンに変身するために、観客である子供たちや視聴者に向けて「ヒューマン・サイン」と呼ばれる円盤を回し、「ヒューマン・コール」という声援を送るよう呼びかけます。客席からのエネルギーを受け、岩城が変身ポーズをとると舞台上が暗転し、客席後方からワイヤーを使って照明を浴びたヒューマンの飛び人形が滑空してくるという独特の演出がなされ、フラッシュの閃光と共に岩城の代わりにヒューマンが登場するという流れが定番でした。

番組のオープニングとエンディングでは、出演者と観客の子供たちが一体となって主題歌を歌い、CM明けには全員で「ヒューマン準備体操」を踊るのが恒例でした。進行は主に山田康雄氏のナレーションによっていましたが、敵幹部が客席近くの小ステージに現れ、子供たちに語りかける場面なども盛り込まれました。公開録画ゆえに、公演中にNGが出ても基本的にそのまま進行し、終了後に撮り直して編集するという手法が取られました。

キャラクターとデザイン

ヒーローであるヒューマンや登場怪獣のデザインは、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』のデザインで知られる成田亨氏が手掛けました。成田氏は本作のデザインを自身の集大成と位置づけ、ウルトラシリーズとの共通点が見られる一方で、舞台上演という特性を考慮し、ステンレス鋼をヒューマンのマスク素材に採用するなど意欲的な挑戦も行いました。この光り輝くステンレスマスクは成田氏にとって会心の出来だったといいますが、その「重さ」が難点でもありました。近年、このマスクの実物がテレビ番組で鑑定され、本物であると確認されています。

主人公・岩城淳一郎が変身するヒューマン1号は白を基調とした姿で、後に弟の淳二郎が変身するヒューマン2号は赤を基調としており、デザインにいくつかの違いが見られます。敵であるフラッシャー軍団は、首領のキングフラッシャー、戦闘員のフラッシャーなどが登場し、キングフラッシャーが倒された後はグランドフラッシャーが率いる新たな戦闘員が登場しました。怪獣は全13話という短い期間にも関わらず、他の特撮作品の約2クール分に相当する24体が登場しており、バルーンを用いるなど舞台映えと動きやすさを両立させる工夫が凝らされました。一部の怪獣は後の特撮作品にも流用されています。

短命に終わった作品、失われた映像

「公開録画」という斬新な形式で様々な試みを行った本作でしたが、特撮ヒーロー番組に馴染んだ視聴者には受け入れられにくく、「体操教師」や「準備体操」といった設定も十分に生かされないまま、わずか1クール（13話）で打ち切りとなってしまいました。成田亨氏は後年、「考えさせられることが多かった」「特撮を単なる見世物にしてしまった」と振り返っています。

打ち切りに伴い、小学館の学習雑誌で連載されていた漫画も急遽終了となり、学年によって最終回の内容が異なるという混乱が生じました。

本作は放送終了直後に一度だけ再放送された記録がありますが、その後は再放送やCS放送が行われておらず、ソフト化もされていません。これは、当時のVTRが高価で貴重だったため、放送後に別の番組が上書きされ、マスターテープが現存しない可能性が指摘されています。現在、公式な映像はほぼ失われている状況ですが、偶然にも当時のアトラクションショーを撮影した8ミリフィルムが発見され、一部が映像作品としてリリースされています。

短命に終わったものの、『突撃! ヒューマン!!』は、当時の変身ブームという熱狂の中で、舞台劇という異色の手法でヒーロー番組の可能性を模索した、特異な作品として日本の特撮史に名を刻んでいます。

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