立兵庫

室町時代に成立した「立兵庫」は、身分の高くない若い女性や、女歌舞伎の役者、そして遊女たちに特に好まれた髪形です。上流階級の女性が結うことは一般的ではありませんでした。その名前の由来については、「兵庫の遊女」をはじめ、「兵庫鎖」、「兵庫桶」など複数の説がありますが、いずれも定説には至っていません。立兵庫は、中国の髪形である「唐輪」から派生したと考えられており、異国文化の影響を受けた独特な形状が特徴です。

立兵庫の原型は、現代の日本髪とは異なるユニークな結い方でした。額や耳の横の髪（たぼや鬢）は完全にぴたりと抑え込まれ、張り出しを持たせません。前髪は長くても肩にかかる程度に切り揃えられ、左右に振り分けておろされました。最も特徴的なのは「髷（まげ）」です。髪全体を頭頂部で一つにまとめて結び、その束を頭上で大きな輪状にします。さらに、余った毛先をこの輪の根元部分に巻きつけ、全体を高く立ち上げるように結い上げるのが特徴です。この立体的な結い方は、同じく輪を作る唐輪を日本の流行に合わせてアレンジしたものと推測されます。

江戸時代に入ってからも、立兵庫は遊女たちに結われ続けました。しかし、江戸時代が進むにつれて、額や耳元に髪を張り出すような華やかな髪形が流行します。この流行の影響を受け、立兵庫も変化を遂げます。鬢を張る形へと変わり、髷も以前より低く結われるようになりました。また、結う対象も若い遊女から、老女など年齢を重ねた女性へと移っていきました。

一時はその形を変え、結われる対象も限定された立兵庫でしたが、幕末期になると再び遊女の間で結われるようになります。そして、この立兵庫から派生した髪形が、「横兵庫（よこひょうご）」です。横兵庫は、特に江戸時代の吉原などで、最高位の遊女である花魁が結う髪形として知られ、非常に豪華で複雑な髷へと発展しました。立兵庫は、日本の遊女文化や髪形史において重要な位置を占め、後世に影響を与えた髪形です。

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