立川町の風力発電
立川町の風力発電：強風を活かした地域再生の軌跡
山形県庄内町（旧立川町）は、日本海に面した庄内平野に位置し、古くから強風「清川だし」に悩まされてきました。この風は、春から秋にかけて吹く南東の強風で、時には秒速20メートルに達することもある「日本三大悪風」の一つです。農業に甚大な被害をもたらすこの風を、逆手に取ってエネルギーに変えようという試みが、立川町の風力発電事業の始まりでした。
「清川だし」との闘い
立川町は、最上川の峡谷出口に位置するため、「清川だし」の影響を最も受ける場所でした。この強風は、農作物の生育を妨げ、収穫量を減らすだけでなく、大火の原因となることもありました。特に1976年の冷夏とだし風の直撃は、町に壊滅的な被害をもたらし、過疎化を加速させました。この状況を打破するため、町は「清川だし」をエネルギーとして利用する、という逆転の発想にたどり着きます。
二度の失敗と再起
当初、町は山形大学の教授の提案を受け、風力発電を温室栽培に活用する計画を立てました。しかし、導入した小型風車は強風に耐えられず、すぐに破損してしまいました。その後、国のモデル事業として、より大型の風車を導入しましたが、これも地吹雪によって吹き飛ばされ、実用化には至りませんでした。これらの失敗は、日本の風が風力発電に適さないという評価を定着させてしまう要因となりました。
しかし、町は諦めませんでした。1988年のふるさと創生事業を機に、再び風力発電による町おこしが動き出します。過去の失敗を教訓に、実用的な風力発電を目指し、アメリカ製の大型風力発電機を導入しました。当時、国内では風力発電機の開発が黎明期であり、メーカーからの協力が得られなかったため、海外からの輸入に踏み切ったのです。国との交渉を経て輸入許可を得たこの風車は、町に大きな変化をもたらしました。
先駆的な取り組みと制度改革
1993年、立川町はアメリカ製の風力発電機を3基導入し、当時の日本の自治体としては最大級の風力発電施設を稼働させました。この発電施設は、一般家庭約60世帯分の電気をまかない、地域に大きな貢献をもたらしました。さらに、この発電事業を成功させるために、町は電力会社への売電制度を導入するための制度改革にも取り組みました。当時、風力発電による電力は自家発電とみなされ、売電が認められていなかったため、町長自らが国と交渉し、余剰電力の買い取り制度を確立させました。この制度は、後に全国に広がり、再生可能エネルギー導入を後押しする重要な一歩となりました。
「風車村」と地域活性化
風力発電事業の成功を受け、町は発電所周辺を「風車村」として整備しました。資料室や体験コーナー、遊具広場などを設け、観光や社会教育の場として活用しました。また、「全国『風』サミット」を主催し、風をテーマにした地域活性化を進める自治体との交流を深めました。さらに、風力発電に関心のある自治体を集め、「風力発電推進市町村全国協議会」を結成するなど、全国的な風力発電の普及にも貢献しました。
発電事業の拡大と庄内町への継承
立川町は、風力発電を本格的な事業として拡大させ、最終的には町全体の消費電力を新エネルギーで賄う計画を立てました。この計画に基づき、1996年に民間企業が風力発電機を導入し、町も第三セクターを設立して発電事業に参入しました。2002年には町営の大型発電機を導入し、風力発電は町の電力供給の重要な柱となりました。2005年の市町村合併後、風力発電事業は庄内町に引き継がれ、現在も町の再生可能エネルギー事業の中核を担っています。
合併後の動向と新たな展開
庄内町となった現在も、風力発電は町の重要な産業の一つです。町営風車は老朽化のため撤去されましたが、民間企業による風力発電事業は継続しており、新たな風力発電所の建設も進められています。風力発電による売電収益は、町の林道整備や農林漁業の発展に活用されています。庄内町は、風力発電だけでなく、バイオマスや太陽光発電など、多様な再生可能エネルギーの導入にも積極的に取り組んでおり、持続可能な社会の実現を目指しています。
まとめ
立川町の風力発電事業は、強風という地域の課題を逆手に取り、地域活性化につなげた画期的な取り組みです。初期の失敗を乗り越え、先駆的な制度改革を行いながら、自治体による再生可能エネルギー導入のモデルケースとなりました。この歴史は、庄内町に引き継がれ、再生可能エネルギーによる持続可能な地域づくりへの挑戦は、今も続いています。
参考資料
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。