立派な詐欺師

『立派な詐欺師』：ゴダールが描く、マラケシュの贋札と運命

ジャン＝リュック・ゴダール監督による短編映画『立派な詐欺師』（Le grand escroc）は、1964年に製作されたオムニバス映画『世界詐欺物語』（Les plus belles escroqueries du monde）の一篇です。フランス、イタリア、日本、オランダの合作という国際色豊かな作品で、東京、アムステルダム、ナポリ、パリ、マラケシュの5都市を舞台に、異なる監督がそれぞれのエピソードを手がけています。

『世界詐欺物語』は、堀川弘通、ロマン・ポランスキー、ウーゴ・グレゴレッティ、クロード・シャブロル、そしてゴダールという錚々たるメンバーが参加した意欲作でしたが、日本での公開時にはゴダール監督が担当したマラケシュ篇がカットされた経緯があります。そのため、日本では『世界詐欺物語』から独立した作品として、1966年に公開されることとなります。

本作『立派な詐欺師』は、イスラエルで実際に起きた贋札事件を基に、貧しい人々に施しをする贋札犯の姿を描いています。この一見矛盾する行為、そしてその背後にある複雑な心情が、ゴダールの独特な視点を通して描かれています。

物語は、モロッコのマラケシュの喧騒とした市場から始まります。アメリカ人ジャーナリスト、パトリシア・リーコック（ジーン・セバーグ）は、贋札を所持しているとして、当局に尋問を受けます。この出会いをきっかけに、パトリシアは贋札づくりの謎を追う旅へと身を投じていきます。

ジーン・セバーグは、オットー・プレミンジャー監督の『悲しみよこんにちは』やゴダール自身の代表作『勝手にしやがれ』などでも知られる、当時すでに国際的なスターでした。贋札犯を演じるのはシャルル・デネール。後にフランソワ・トリュフォー監督作品で活躍する名優です。そして警部役にはラズロ・サボ。ゴダール作品に複数回出演しており、後に自身も監督としてデビューする人物です。

ゴダールの作品らしく、本作『立派な詐欺師』は、単なる犯罪映画ではありません。社会の矛盾や貧富の差、そして人間の倫理観といった、様々なテーマが複雑に絡み合っています。モロッコの独特な雰囲気、そしてゴダール自身の政治的・社会的な視点が、この短編映画に深みを与えています。

音楽はミシェル・ルグラン、撮影はラウール・クタールと、スタッフも一流のメンバーが揃っています。特に音楽は、映像と見事に調和し、マラケシュの街の雰囲気をさらに強調しています。

『立派な詐欺師』は、ゴダールの他の長編作品と比較すると、規模も時間も小さいですが、その凝縮された世界観と、ゴダール独特の演出は、観る者を魅了してやみません。単なるエピソードとしてだけでなく、ゴダールという巨匠のフィルモグラフィにおいても重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

ゴダール作品入門として、あるいは彼の独特な視点を垣間見たいという方にも、強くお勧めできる一本です。 『勝手にしやがれ』のような派手さはないものの、静かに、しかし確実に心に響いてくる、そんな作品です。

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