立羽不角

立羽不角：江戸俳諧の異才、その生涯と作品

立羽不角（たちば ふかく、1662-1753）は、江戸時代中期を代表する俳諧師の一人です。旧姓は橘、通称は定之助、平八。遠山、千翁など数々の雅号を用いました。

不角は、松永貞徳の流れを汲む岡本不卜に師事し、貞門派の伝統を継承しながらも、より大衆的な、親しみやすい句風を追求しました。自身は「温故知新流」を標榜しましたが、他の俳諧師からは「化鳥風（かちょうふう）」と揶揄されるなど、常に時代の先端をゆく挑戦的な姿勢で俳諧界に臨みました。

波瀾万丈の生涯

不角の誕生は、まさにドラマチックでした。産声もなく、全身蒼白だったため死産と見なされ、放置されたという逸話が残されています。しかし、日暮れに息を吹き返し、一命を取り留めました。

延宝2年（1674年）、岡本不卜に入門し、「牙有る物角無し」の心で「不角」と号を改めました。その後、精力的に作品を発表し、天和3年（1683年）には『俳諧題林一句』に句が掲載されています。貞享4年（1687年）には浮世草子『色の染衣』を刊行するなど、俳諧のみならず、当時の大衆文化にも精通した多才ぶりを発揮しました。

元禄時代には、前句付興行や月次発句興行を積極的に開催し、多くの句集を編纂しました。日本橋で書肆を営み、地方出身の武家を中心とした独自の俳諧集団を形成。教養に裏打ちされた洗練された表現と、大衆の琴線に触れる親しみやすさを兼ね備えた句風は、多くの支持を集めました。

元禄末期には、夢枕に柿本人麻呂が現れ、橘姓から立羽姓に改名するよう促されたという神秘的なエピソードも伝えられています。その後、備前岡山藩主池田綱政との交流を深め、法橋の地位を得るなど、高位の武士や公家社会との繋がりも強めていきました。

宝永時代に入ると、不角の高点付興行には句が集まらなくなり、連句集や俳諧撰集へと活動の軸足を移します。「温故知新流」を標榜し、自らの俳諧を正当化しようと試みましたが、同時に、対立する宝井其角派との激しい論争に巻き込まれることになります。

享保時代には歳旦集の編纂に力を注ぎ、門弟数は数千人に及んだと伝えられています。享保15年（1730年）には京へ行き、法眼の位を授かります。晩年は息子たちと共に、不角派の普及に尽力しました。宝暦3年（1753年）、72歳で生涯を閉じました。

多彩な作品群

不角の作品は、俳諧のみならず、浮世草子、地誌、怪談集など多岐に渡ります。代表的な作品には、浮世草子『色の染衣』『好色染下地』、地誌『江戸惣鹿子』などがあります。また、多数の前句付高点句集、月次発句高点句集、連句集、俳諧撰集、歳旦集などを編纂し、当時の俳諧界に多大な影響を与えました。特に、連句集『正風集』や俳諧撰集『つげのまくら』は、自らの俳諧観を示す重要な作品として知られています。

不角の功績と影響

立羽不角は、貞門派の伝統を踏まえながらも、大衆的な句風を追求し、独自の俳諧集団を形成した革新的な俳諧師でした。数多くの作品群と、弟子たちへの指導を通して、江戸時代の俳諧文化の発展に大きく貢献しました。その生涯は波乱に満ちていましたが、常に挑戦を続け、時代の変化に対応することで、俳諧界における確固たる地位を築き上げたと言えるでしょう。彼の作品は、現代においても、江戸時代の大衆文化を知る上で貴重な資料となっています。彼の生涯と作品は、後世の俳諧師たちに大きな影響を与え続け、江戸時代の俳諧史において重要な役割を果たしました。

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