竜吐水

竜吐水（りゅうどすい）

竜吐水は、江戸時代から明治時代にかけて用いられた消火道具です。竜が水を吐く様子からその名が付けられました。改良型の雲竜水（うんりゅうすい）も存在します。

概要

1764年（明和元年）に江戸幕府から各町に配備された、手押しポンプ式の放水具です。火災の際、屋根に水をかけて延焼を防ぐ程度の能力しかありませんでした。自身番屋に常備され、木製の箱型で駕籠のような外観をしていました。

江戸東京博物館には1882年（明治15年）製の竜吐水が所蔵されています。昭和時代の手押し放水具を竜吐水と呼ぶ博物館もあります。

アメリカのセイラム・ピーボディー博物館にも竜吐水が所蔵されており、水槽部の高さは53.3cmです。

モースによる酷評

モースは1877年（明治10年）に東京で発生した火災の際、竜吐水による消火活動を観察し、日記にその様子を記録しました。日本の文化に理解を示していたモースですが、竜吐水については酷評しています。

モースは竜吐水を「最もバカげた稚拙な道具」と評し、放水の細さや、空気筒がないために水が少しずつしか出ない点、乾燥によるひび割れからの水漏れなどを指摘しました。また、数台の内まともに機能したのはわずかで、操作には数人が必要であり、水漏れで作業者が濡れてしまうなど、散々な評価を与えています。しかし、火消しの勇敢さについては評価しています。

作品への登場

童門冬二の小説『田中久重』では、竜吐水の欠点を指摘した田中久重が、1847年（弘化4年）に改良型の「雲竜水」を考案したという記述があります。雲竜水は放水距離が9メートル以上となり、消火器の発展に貢献したとされています。1871年（明治4年）に輸入されたイギリス製の消火ポンプは、性能面では雲竜水と大差なかったようです。

備考

モースの日記からもわかるように、竜吐水は乾燥に弱く、貯水性も低いものでした。価格は約10両（現在の約250万円相当）と高価でした。

歌川国芳の「成田山絵馬」には、火事場へ駆けつける火消し組と竜吐水が描かれています。この絵馬は1833年（天保4年）に奉納されたもので、モースのスケッチよりも44年早い記録です。

幕末期には、フェリーチェ・ベアトによって横浜火消しと竜吐水の写真が撮影されています。写真から、放水筒の高さは3メートルに満たず、2階建て以上の建物への有効性は疑問視されています。モースも、運用中の揺れが激しい点を指摘しています。

放水の細さや貯水量の少なさから、捕物には不向きだったと考えられます。しかし、竜吐水は少なくとも120年以上、日本の消火活動を支えました。

現在でも稼働可能な竜吐水や雲竜水が各地に残っており、消防署のイベントなどで見ることができます。

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