竜田御坊山3号墳

竜田御坊山3号墳：7世紀中葉の謎めいた円墳

奈良県生駒郡斑鳩町龍田地区に存在した竜田御坊山3号墳は、現在では墳丘が失われているものの、その埋葬施設から発掘された遺物によって、古代日本の歴史研究において極めて重要な位置を占める古墳です。龍田神社の北、法隆寺の南西に位置する丘陵地帯に築造され、同地区に点在する複数の古墳群の一つとして知られています。

小さな円墳、大きな謎

直径約8メートル、高さ約2.5メートルと推定される小規模な円墳である3号墳は、1965年の宅地造成工事中に発見されました。発掘調査の結果、墳丘は完全に消失してしまいましたが、内部からは精巧な横口式石槨が発見され、その中には漆塗りの家形陶棺が納められていました。この石槨と漆塗りの陶棺は、被葬者の高い身分を示唆する重要な要素となります。

石槨は、底石、蓋石、閉塞石の3つの石材から構成され、花崗岩を用いて精緻に造られています。特に蓋石の内面には漆喰が塗布されており、内部の密閉性を重視した造りであったことがわかります。石槨の規模は、明日香村にある鬼の俎や鬼の雪隠と比較するとやや小型ですが、同様の技術を用いた精巧な造りである点が注目されます。

緊急の埋葬？漆塗陶棺の謎

家形陶棺は須恵器質の四注式で、淀川流域の千里丘陵周辺で見られる陶棺と共通性があります。内部と外部の全面に漆が塗布されていることから、極めて格式の高い埋葬形式であることがわかります。しかし、興味深いことに、棺身と棺蓋は完全に密着しておらず、急いで作られたと見られる痕跡も見られます。棺蓋には大きなひび割れがあり、補修の跡も確認できます。このことから、被葬者の埋葬が緊急に行われた可能性が指摘されています。

類例のない副葬品

陶棺からは、14～15歳と推定される青年男性の人骨とともに、3点の貴重な副葬品が出土しました。これらは、いずれも日本列島では他に類を見ない貴重な遺物であり、1981年に国の重要文化財に指定されています。

琥珀製枕: 岩手県久慈産と推定される琥珀製の枕は、石製の枕から進化したと考えられています。
三彩有蓋円面硯: 唐代初期のものと類似する、中国あるいは朝鮮半島からの輸入品と推測されています。
* ガラス製筆管: 円面硯とのセットで、書道に使われたと推測されています。李静訓墓からの出土例もあり、当時としては珍しいものでした。

これらの副葬品は、被葬者が非常に高い地位にあり、貴重な文物を入手できる立場にあったことを示しています。

被葬者の特定：上宮王家との関連

被葬者の身元は特定されていませんが、聖徳太子の子孫とされる上宮王家の人物ではないかとの説が有力です。上宮王家は、聖徳太子が斑鳩宮に移住してから山背大兄王が自害するまでの間、斑鳩地域を支配した有力一族でした。3号墳の所在地名「御坊山」が「御廟山」の転訛であること、そして横口式石槨や漆塗陶棺、貴重な副葬品といった要素から、上宮王家の関係者である可能性が高いと考えられています。人骨の年齢から、聖徳太子の孫世代にあたる人物の可能性も指摘されています。しかし、陶棺の急造の様相から、どのような事情で緊急埋葬が行われたのか、今後の研究が待たれます。

周辺の古墳との関連

3号墳周辺には、同時期に築造された他の古墳も存在し、それらとの関連性についても今後の研究課題となっています。

竜田御坊山1号墳・2号墳

3号墳の南西には、1号墳と2号墳が存在していましたが、これらは1964年の宅地造成工事で破壊され、発掘調査は行われていませんでした。わずかに残された記録からは、1号墳は竪穴式石室、2号墳は横穴式石室と推定され、それぞれ異なる埋葬施設が用いられていたことがわかります。

結論

竜田御坊山3号墳は、その規模は小さくとも、出土した遺物の貴重さ、そして被葬者の身分や築造背景など、多くの謎を秘めた重要な古墳です。今後の研究によって、7世紀中葉の斑鳩地域の政治的・社会的な状況、そして被葬者の真の姿が明らかになることが期待されます。現在、出土品は奈良県立橿原考古学研究所附属博物館に保管・展示されています。

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