山背大兄王

山背大兄王：聖徳太子の子、悲劇の皇族

山背大兄王（やましろのおおえのおう）は、7世紀前半に生きた皇族で、聖徳太子の子として知られています。母は蘇我馬子の娘・刀自古郎女であり、蘇我入鹿とは従兄弟にあたります。しかし、その出自と時代背景から、彼は数奇な運命を辿ることになりました。

皇位継承争いと蘇我氏の台頭

推古天皇の死後、皇位継承問題が発生します。蘇我氏の一族である境部摩理勢らは山背大兄王を擁立しようとしましたが、蘇我蝦夷は田村皇子（後の舒明天皇）を推しました。最終的に、山背大兄王は皇位を辞退し、舒明天皇が即位します。この背景には、山背大兄王が用明天皇の血筋であり、天皇位から遠ざかっていたこと、そして斑鳩という要衝に拠点を持ち、独自の勢力を持っていたことが影響していると考えられます。また、蘇我氏が反蘇我氏勢力との対立を避けたかったという説もあります。

蘇我蝦夷の息子である蘇我入鹿が実権を握ると、状況はさらに悪化します。入鹿は古人大兄皇子を擁立するために皇極天皇を即位させ、山背大兄王との関係は決定的に悪化しました。

斑鳩宮の悲劇

皇極天皇2年（643年）、蘇我入鹿は兵を差し向け、斑鳩宮を襲撃させます。山背大兄王は一族と共に生駒山へ逃れますが、家臣の東国への脱出と再起を促す進言を聞き入れず、「百姓を傷つけたくない」として入鹿に身を捧げる覚悟を示しました。最終的に、山背大兄王は斑鳩寺に戻り、一族と共に自害。上宮王家は滅亡しました。

蘇我蝦夷は入鹿が山背大兄王を殺害したことを聞き激怒したとされています。

暗躍する皇族たち

山背大兄王の襲撃には、後の孝徳天皇となる軽王など、多くの皇族が関与していたと言われています。皇位継承を有利に進めたい皇族たちの思惑と、山背大兄王を排除したい蘇我入鹿の思惑が一致した結果、この悲劇が起きたとも考えられます。

また、上宮王家が所有していた深草屯倉は秦氏が管理しており、山背大兄王が秦氏を頼るように進言された背景には、秦氏が上宮王家の乳部の管理者であったことが関係しています。

滅亡の真相

上宮王家滅亡事件の首謀者は皇極天皇であり、動機は敏達天皇後裔王統の復活や、上宮王家から仏教興隆の権威や建築技術、経済開発の主導権を奪うことにあったとする説も存在します。

史料に見る山背大兄王

『上宮聖徳法王帝説』では、山背大兄王は聖徳太子の後継者として描かれ、賢明で人民を愛する人物として称えられています。しかし、蘇我入鹿によって一族もろとも滅ぼされたことが記されています。

『聖徳太子伝補闕記』にも、蘇我氏によって山背大兄王の一族が殺害されたことが記されています。

系譜と墓所

山背大兄王には多くの兄弟姉妹と妻子がいました。

宮内庁によって治定された墓はありませんが、奈良県斑鳩町にある富郷陵墓参考地が被葬候補地として想定されています。また、平群町の西宮古墳を真墓とする説も存在します。

山背大兄王の生涯は、皇位継承争いや蘇我氏との対立に翻弄された悲劇的なものでした。しかし、彼の行動や思想は、後の時代にも影響を与え続けています。

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