童元鎮

童元鎮（どう げんちん）は、明代に活躍した軍人です。彼の生没年ははっきりとはわかっていません。

初期の活躍

童元鎮は、万暦年間に指揮官として頭角を現しました。平楽府で起きた莫天龍の反乱を鎮圧し、その功績によって游撃将軍に昇進しました。その後も、勢江の瑤族が起こした反乱を鎮圧するなど、数々の戦いで武功を重ねました。

永寧州、潯州府、梧州府の参将を歴任した後、副総兵に進み、署都督僉事に抜擢され、広西総兵官となります。その後、広東総兵官に転任するなど、各地の要職を歴任しました。

少数民族との戦い

1595年、総督の陳大科は、童元鎮が少数民族の事情に詳しいことから、彼を広西総兵官に再任させました。当時、岑渓県周辺には多くの少数民族が居住しており、その中には反抗的な動きを見せる者たちもいました。

童元鎮は、かつて参将として岑渓に駐屯していた経験から、瑤族の人心をよく理解していました。彼は、潘積善らの首長に帰順を促し、多くの瑤族がこれに応じました。しかし、官軍が北科の瑤族を掃滅しようとしているという噂が広まると、瑤族たちは騙されたと思い込み、反乱を起こしてしまいます。

この反乱を鎮圧するため、童元鎮は陳大科や戴燿らとともに軍を率いて出陣します。副将の陳璘や参将の呉広も加わり、反乱軍との激戦が繰り広げられました。童元鎮は、巧みな戦略で反乱軍を打ち破り、1500人以上を捕斬し、残りの者たちも帰順させました。

さらに、府江で韋扶仲らが起こした反乱も、陸長庚とともに鎮圧しました。彼らは、瑤族を徴募して間道を進ませ、夜間に韋扶仲の妻子を捕らえ、韋扶仲を伏兵で捕らえるという奇策を用いて成功を収めました。

朝鮮出兵と転任

豊臣秀吉による第二次朝鮮侵攻（慶長の役）が起こると、北京の朝廷では、浙江・福建方面から水軍で日本本土を攻撃して牽制する策が議論されました。1598年、童元鎮は浙江総兵官に転任し、この作戦の実行を命じられます。しかし、秀吉の死去により日本軍が撤退したため、浙江からの出撃は実現しませんでした。

1599年、童元鎮は貴州総兵官に転任します。

楊応龍の乱と大敗

1600年、李化龍が楊応龍の乱を鎮圧するために八道に軍を発すると、童元鎮は永順、鎮雄、泗城の土司の軍を率いて、烏江から進軍することになりました。しかし、楊応龍を恐れた童元鎮は、なかなか進軍しようとしませんでした。李化龍の督促を受けてようやく進発しますが、そのことが後に悲劇を招くことになります。

反乱軍の孫時泰は、官軍が結集する前に各個撃破するよう進言し、楊応龍はこれを受け入れました。楊応龍は、まず童元鎮の軍を狙い、烏江を渡ったところを叩こうと計画します。監軍按察使の楊寅秋は、烏江が反乱軍の本拠地から近いため、他の七道の軍が深入りするのを待つよう進言しましたが、童元鎮は聞き入れませんでした。

永順の軍を先発させたところ、反乱軍は1000人あまりを派遣して誘い込みます。先発隊が烏江を渡り終えると、老君関を奪取。さらに、前哨参将の謝崇爵が河渡関を攻め落としました。しかし、3月、反乱軍は数千の兵で水西の軍を攻撃。象兵を繰り出すも、象が逆走し、味方の誤射も重なり、水西軍は大混乱に陥ります。泗城軍も謝崇爵も敗走し、浮橋を渡ろうとして多くの兵が溺死しました。

烏江にいた童元鎮の軍は、先発隊が敗北したことを知りませんでした。翌日、哨戒に出た永順の兵300人が反乱軍数万に遭遇。反乱軍は水西軍の軍装をしていたため、永順の兵は味方と誤認し、全滅させられました。反乱軍は烏江に到達し、油断していた童元鎮の軍を撃破。多くの兵士が溺死し、参将の楊顕と二人の息子も戦死しました。

童元鎮の部下3万人のうち、生き残ったのは1割に満たず、将校に至っては謝崇爵ら3人のみという壊滅的な敗北でした。烏江は夥しい遺体で流れを止めたと言います。

敗戦後の末路

貴陽では、この敗報を聞き、軍民が動揺しました。李化龍は謝崇爵を斬り、兵力を増強。鎮雄土官の隴澄に反乱軍の帰路を塞がせました。隴澄は元鎮と合流せず、無事であったため、反乱軍と通じているのではないかと疑われました。

その後、隴澄の部隊が反乱軍を破り、最終的に李応祥らが楊応龍の反乱を鎮圧しました。

童元鎮は、敗戦の責任を問われ、事官に降格されます。反乱が鎮圧された後、逮捕され、北京に連行されました。死罪に相当するとされましたが、岑渓での功績を考慮され、一兵卒として辺境に流罪となりました。広西巡撫の戴燿が赦免を求めましたが許されず、童元鎮は配所で生涯を終えました。

童元鎮は、その勇猛さと戦略眼で多くの戦いで功績を挙げましたが、最後は悲劇的な敗北を喫し、失意の中で生涯を終えました。彼の人生は、明代の武将の栄光と挫折を象徴するものであり、歴史に深く刻まれています。

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