竹内時男

竹内時男の生涯と業績

竹内時男（たけうち ときお）は、1894年10月26日に石川県金沢市で生まれた日本の物理学者です。彼は元金沢藩士の家に生まれ、後に煙草商となった父のもとで育ちました。1918年に東京帝国大学理科大学の実験物理科を卒業後、三菱造船で技師として勤務した後、東京高等工業学校の講師として教壇に立ちました。

量子力学の先駆者

竹内は、1927年にその論文『新量子力学及波動力学論叢』を発表し、日本で初めて量子力学を広めた物理学者の一人となります。彼は1928年から1930年までフランスに滞在し、ルイ・ド・ブロイのもとで量子力学の研究を行いました。その後も東京工業大学にて助教授として学生たちに物理学を教え続け、1931年には「アインシュタイン宇宙論の新發展」というテーマで東北帝国大学から理学博士の学位を取得しました。

竹内はまた、一般向けの科学記事の執筆も行い、多くの著書を残し、科学ジャーナリストとして広く知られるようになりました。彼の執筆活動により、多くの人々が科学に関心を持つようになり、伏見康治や内山龍雄といった後進の物理学者たちが彼の影響を受けました。

食塩と放射線の人工騒動

しかし、竹内の業績はその後、深刻なスキャンダルに発展します。1936年、彼はラジウム線源を使って食塩にγ線を照射し、放射性物質を生成したと発表しました。この研究の医療効果を主張し、1941年には特許を取得しましたが、仁科芳雄などの著名な科学者から多くの批判を受けました。

この人工放射性食塩の騒動は大きな注目を集め、専門誌での討論が行われるとともに、一般紙でも報じられるほどの議論となりました。最終的に、竹内は自らの誤りを認め、特許権を放棄してこの件は終結しました。彼は、特許書類における誇張について「あれは一種の修飾に過ぎない」と述べ、その誠実性が疑問視されたことも大きな問題となりました。

晩年と宇宙論の研究

竹内は、1944年4月24日に東京都内の病院で脊髄カリエスのため亡くなるまで、物理学に対する情熱を持ち続けました。1940年代には宇宙論の研究にも取り組み、光速の変化を仮定した新たな宇宙モデルの提案等を行いましたが、彼の研究は多くの人に認知されることはありませんでした。発表から70年以上後に、デンマークの科学史家によって見つけられるまで、彼の論文はほとんど知られていなかったのです。

科学コミュニケーションの先駆者

竹内は外国語の文献を迅速に理解し、非専門家向けに解説する能力に長けていました。新聞や一般向けの書籍においても多くの解説を行い、その影響を受けた人々は少なくありませんでした。竹内時男の業績は、今もなお多くの科学者や愛好者に影響を与えており、彼の名は日本の物理学の歴史の中に刻まれています。

もう一度検索