竺仙

竺仙（ちくせん）

東京都中央区、江戸時代からの商業の中心地である日本橋小舟町に店を構える株式会社竺仙は、江戸染浴衣や江戸小紋といった染織品を主に取り扱う老舗の呉服店です。

創業と歴史

竺仙は、江戸時代後期の天保年間に創業しました。実に百五十余年にわたり、日本の染織文化、特に木綿や麻を用いた染物の世界で独自の地位を確立し続けています。第二次世界大戦後、一時的に初代のゆかりの地であった浅草に店舗を構えていましたが、その品質の高さと伝統的な技術が評価され、全国の主要な百貨店や高級呉服専門店からの強い要望に応える形で、呉服取引の中心地である日本橋へと拠点を移しました。

独自の技術とデザイン

竺仙の最も知られる特徴の一つに、江戸染浴衣に代表される独特の染めの技術があります。中でも「古代型新染浴衣」と呼ばれる技法は特に有名で、その美しさと質の高さは広く認められています。この伝統的な技術は、時に歌舞伎の世界においてもその職人たちの生き様が描かれるほど、日本の文化に深く根ざしています。

竺仙では、現在でもなお、職人の手によって丁寧に彫り上げられた手彫りの型紙を使用し、生地を一反ごと手作業で染め上げる型染めの技法を継承しています。機械化が進む現代においても、この手間と時間をかけた伝統的な製法を守り続けることで、一枚一枚に温かみと深みのある風合いが生まれ、唯一無二の品質が保たれています。

また、歴代の当主は伝統を守るだけでなく、新たな創作にも意欲的に取り組んできました。特に現在の当主は、先代から受け継いだ能衣装や古代の紋様に加え、正倉院の紋様や、江戸時代の芸術家である宗達・光琳の作品からの着想を得た創作を積極的に行い、伝統の中に革新を取り入れています。

年間の事業展開

竺仙の生産および販売活動は、毎年1月と2月に開催される展示会を中心に展開されます。1月には東京で、百貨店や専門店を対象とした新作発表会が行われ、主に江戸小紋などの春・夏物の新作が披露されます。続く2月には、同じテーマで京都にて西日本を対象とした展示会が開催されます。これらの展示会で得られた反応や受注状況をもとに、その一年間の具体的な生産計画や販売戦略が立てられ、竺仙の営業活動全体が展開される仕組みとなっています。

歴代当主と継承される思い

竺仙の歴史は、個性豊かな歴代当主たちの手によって紡がれてきました。初代は仙之助といい、銀座の商家で修行を積んだと伝えられています。竺仙という商号の由来については、この初代仙之助の背丈が低かったことから、「ちんちくりんの仙之助」という愛称で呼ばれていたことが、「ちくせん」、そして現在の「竺仙」へと変化していった、という逸話が残されています。二代目も初代と同じく仙之助を襲名し、暖簾を守りました。三代目軍治は、関東大震災の際に炎上する店から大切な型紙を抱えて避難したという伝説的なエピソードの持ち主です。彼は特に尾形光琳に心酔しており、「光甫」と名乗るほどで、その芸術への傾倒は浴衣のデザインにも大きな影響を与えました。四代目茂夫を経て、現在の当主は五代目の文男氏が務めています。文男氏は、平成4年に「竺仙デザイン研究所」を設立するなど、伝統技術と現代的なデザインの融合にも力を入れています。

文化への貢献

竺仙は単に染織品を製造・販売するだけでなく、日本の伝統文化の普及にも力を入れてきました。かつては「江戸っ子の美意識」をテーマに、江戸文化の研究者を招いたセミナー「竺仙さろん」を定期的に開催し（現在は休止）、また能や歌舞伎といった伝統芸能を鑑賞する機会も設けていました。さらに、浴衣や着物の着付け教室も開催しており、日本の装いの文化を広める活動も行っていました。

江戸時代から受け継がれる確かな技術と、時代に合わせた新たな感性を取り入れる柔軟さをもって、竺仙は日本の染織文化、特に夏の風物詩である浴衣や粋な江戸小紋の世界において、現在も重要な役割を果たし続けています。

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