笑福亭智丸

笑福亭智丸は、1988年11月17日に生まれた上方落語家です。笑福亭仁智師匠に弟子入りし、上方落語協会に所属しています。本名である疋田龍乃介の名義で詩人としても活動するなど、文芸とお笑いという二つの異なる分野で才能を発揮する異色の存在として知られています。

幼少期から学生時代

彼の多才なキャリアの原点は、文芸とお笑いへの強い関心にあります。大阪市立豊崎中学校を経て関西大倉高校を卒業した後、2007年に大阪芸術大学芸術学部文芸学科に進学しました。大学では落語研究寄席の会、通称「落研」に加わり、「田舎家君吉」という高座名で活動を開始します。落研では中心的な役割を担い、後に第37代会長も務めました。この大学時代の人脈は現在にもつながっており、同期には現在お笑いコンビ・空気階段として活躍する鈴木もぐら氏がいました。また、二期上にはななまがり、三期上にはミルクボーイといった、現在人気を博している芸人たちが在籍していました。落語の研鑽を積む一方で、漫才にも挑戦するなど、演芸に対する幅広い好奇心を示していました。

詩人としての活動と大学院での学び

大学卒業後の2011年には、さらなる学びを求め同大学の大学院へ進み、芸術文化学の修士課程を専攻しました。大学院での研究活動と並行して、文学創作にも力を入れます。2012年には、本名である疋田龍乃介名義で詩集『歯車vs丙午』を思潮社より刊行しました。この詩集は文学界で注目を集め、その年の権威ある文学賞である中原中也賞と萩原朔太郎とをるもう賞の候補作にノミネートされるという快挙を成し遂げ、詩人としても高い評価を得ました。

落語家への道と修行

大学院での課程を修了した2013年4月1日、彼は長年の夢であった落語家への道へと正式に進みます。笑福亭仁智に入門し、3番目の弟子となりました。そして、入門からわずか二ヶ月後の同年6月8日、富山県高岡市での高座がプロとしての初舞台となりました。この記念すべき舞台の直前、師匠である笑福亭仁智から「笑福亭智丸」という芸名が授けられました。初舞台では、古典落語の「動物園」と日本の伝統芸である南京玉簾を披露し、落語家としてのキャリアをスタートさせました。師匠のもとで約3年間の厳しい修行に励み、2016年3月31日に無事、年季明けを果たしました。

「文芸派」落語家としての真髄

笑福亭智丸は、自らを落語界の「文芸派」であると公言しています。そのルーツは中学時代に作家・中島らも氏の作品に触れたことから始まり、純文学への関心を深めました。特に、町田康氏や中原昌也氏といった作家の「口語的な文体の持つリズム」に強く惹かれたと言います。興味深いことに、この文学への傾倒と同時期に、お笑いにも夢中になり、積極的にライブに通うようになりました。このようなバックグラウンドを持つことから、彼の落語創作には文芸からの影響が色濃く反映されています。現代文学や現代詩の手法や感性を落語に取り入れ、独自の視点とスタイルで新作落語の創作に意欲的に取り組んでいます。伝統的な形式を守りつつも、現代的な感覚を取り入れた彼の新作は、落語ファンだけでなく幅広い層から注目を集めています。

人物とエピソード

彼の実家は大阪の天六駅近くで質屋を営んでおり、地域との繋がりも深いです。また、高座の外でのユーモアも魅力的です。招き猫のポーズに似ているものの、手首を曲げない独自の形をした「智（チ）ーポーズ」を考案し、上方の演芸人の間で流行させようとするなど、親しみやすい一面も持っています。

文芸への深い造詣と、お笑いへの情熱を併せ持つ笑福亭智丸は、その多彩な才能とユニークなキャラクターで、上方演芸界において独自の存在感を放っています。今後の更なる飛躍が期待される落語家の一人です。

もう一度検索