笠原潔

音楽学者 笠原潔：横浜の西洋音楽受容と音楽考古学への貢献

笠原潔（1951-2008）は、日本の音楽学界に重要な足跡を残した音楽学者です。専門は音楽学、音楽考古学、西洋音楽史で、特に幕末から明治初期の横浜における西洋音楽の受容過程に関する研究で知られています。東京大学教養学部を卒業後、名古屋芸術大学、放送大学などで教鞭をとり、後進の育成にも尽力しました。

笠原氏の研究は多岐に渡りますが、大きな柱の一つは、19世紀半ばから後半にかけて、黒船来航後の横浜という開港地で花開いた西洋音楽の導入と定着の歴史です。当時、横浜元町では西洋音楽が盛んに演奏され、独自の音楽文化が形成されていきました。笠原氏は綿密な調査と分析を通じて、この時代の音楽の実態を明らかにし、その成果は『黒船来航と音楽』（2001年）に結実しました。この著作は、当時の横浜における西洋音楽の受容を多角的に考察し、歴史的・文化的な側面から深く掘り下げた画期的なものでした。

もう一つの重要な研究分野は音楽考古学です。彼は、埋もれた楽器の発掘調査や分析を行い、歴史的な楽器の構造や演奏方法について、学術的な知見を提供しました。この研究成果は『埋もれた楽器：音楽考古学の現場から』（2004年）にまとめられ、音楽考古学研究の発展に大きく貢献しました。

笠原氏は、西洋音楽史に関する著作も多く残しています。代表的な著書には、『音楽の歴史と音楽観』（1992年）、『西洋音楽の歴史』（1997年）、『西洋音楽の諸問題』（2005年）などがあり、これらは、分かりやすく体系的な記述で、多くの学生や音楽愛好家に広く読まれました。また、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトといった作曲家の音楽を通して、彼らの内面世界を探る『音楽家はいかに心を描いたか：バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト』（2009年）は、没後も高く評価され、第22回辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金を受賞しました。これは、笠原氏の音楽研究における深い洞察力と表現力の高さを示すものです。

笠原潔は、2006年には「出土琴と筑状弦楽器の研究」で大阪芸術大学より博士号（芸術文化学）を取得しています。これは、長年の研究活動の集大成であり、彼の学術的な貢献が認められた証です。放送大学教授在職中に病に倒れ、2008年に逝去されましたが、その研究業績は、日本の音楽学、特に西洋音楽史と音楽考古学の発展に多大な影響を与え続けています。彼の残した著作は、これからも多くの研究者や音楽愛好家にとって貴重な資料であり続けるでしょう。また、共編著や翻訳にも携わり、幅広い分野で活躍しました。たとえば、『音楽理論の基礎』（徳丸吉彦氏との共著）や『世界の芸術文化政策 政策経営プログラム』（西村清和氏との共編著）なども、音楽教育や文化政策の分野に貢献する重要な著作です。これらの活動は、彼の学問への深い愛情と、後進育成への強い意志を示すものと言えるでしょう。彼の功績は、日本の音楽文化の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。

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