第一白川橋梁

第一白川橋梁は、熊本県南阿蘇村と大津町の間、白川に架かる南阿蘇鉄道高森線の鉄道橋です。立野駅と長陽駅の間に位置し、全長は152.15メートル。かつては国鉄で最も高い鉄道橋として知られていました。

建設の背景

1918年、宮地線（後の豊肥本線）が開通したことがきっかけとなり、阿蘇地域での鉄道建設の要望が高まりました。1921年には立野 - 高森間の鉄道敷設予算が成立し、1923年に工事が開始されました。

橋梁の架設位置は、阿蘇カルデラの外輪山が切れ、白川が深い峡谷を形成する場所。高森線は軽便鉄道として建設されましたが、将来的に九州を横断する路線となる構想もあったようです。

初代橋梁

構造

1924年に鉄道大臣官房研究所で設計が行われました。沼田政矩技師が主査を務め、様々な形式を比較検討した結果、アーチ橋が選ばれました。

アーチ橋が選ばれた理由としては、

深い谷であるため、足場が不要なカンチレバー式組み立てが適していたこと
コンクリートの骨材が高価で施工が困難なため、基礎工を最小化できるバランストアーチが適していたこと
両岸がアーチの反力に耐えられると判断されたこと

などが挙げられます。

地質調査の結果、橋台や橋脚の建設予定地点は十分に耐力があると判断されましたが、高森側に断層による崩壊の危険があったため、橋梁全体を少し移動させることになりました。

最終的な設計では、中央の主径間が約91.44メートル、両側の側径間が約30.48メートル。高森方には約12.19メートルの鈑桁が架けられ、全体の長さは約166.3メートルとなりました。この構造は、2ヒンジスパンドレル・ブレースト・バランストアーチと呼ばれるもので、鉄道用としては珍しい形式です。

建設

建設は鉄道省の直轄工事として行われました。1926年から測量、橋台や橋脚基礎のコンクリート施工が行われ、1927年には桁の組み立てが始まりました。現場への部品運搬には索道（ロープウェイ）が使用され、両岸にはクレーンが設置されました。慎重な作業の結果、1927年9月に橋梁は竣工しました。

運用

1928年2月12日、高森線立野 - 高森間開通とともに供用を開始しました。その後、高森線は赤字路線となり、列車本数も限られていましたが、観光用のトロッコ列車が徐行運転を行うなど、乗客サービスに貢献していました。

2015年度には土木学会により選奨土木遺産に選定されましたが、2016年の熊本地震により甚大な被害を受け、指定解除となりました。

2016年熊本地震での被災

2016年4月14日と16日に発生した熊本地震により、第一白川橋梁は深刻な損傷を受けました。橋台や橋脚の移動、部材の破断や変形などが確認され、架け替えが必要と判断されました。総工費は約40億円、工期は約5年と見積もられました。

復旧と2代橋梁

2018年3月に復旧工事が開始され、2021年には旧橋の撤去工事が行われました。撤去にあたっては、地震による影響で部材に応力が残っている可能性があり、慎重な作業が求められました。ケーブルクレーン直吊工法を採用し、解析モデルによる事前予測やリアルタイムでの計測を行いながら、安全に解体作業が進められました。

上部工の復旧にあたっては、初代橋梁と同じ2ヒンジスパンドレル・ブレースト・バランストアーチ橋とすることになりました。下部工は補強した上で再利用し、部材の配置や形状、色調も旧橋梁と同じになるように設計されました。

新しい橋の設計では、耐震設計や阿蘇立野ダムの湛水の影響が考慮されました。各橋脚は補強され、流水圧力や地盤の緩みへの対策が盛り込まれました。

2022年1月に新橋の架設工事が始まり、ケーブルクレーン直吊り工法により架設が行われました。工場で製作された部品を地組ヤードで組み立て、大型クレーンで運び込んで設置するという流れ作業が構築されました。厳しい精度管理の下、安全かつスピーディーな架設が実現し、2022年夏に新橋が完成しました。

2023年2月9日にはレール締結式が行われ、4月10日から試運転を開始。7月15日に営業運転を再開しました。

第一白川橋梁は、令和4年度土木学会田中賞を受賞しました。

年表

1923年（大正12年）4月：高森線着工。
1924年（大正13年）：鉄道大臣官房研究所において第一白川橋梁の設計を実施。
1926年（大正15年/昭和元年）：測量、橋台および橋脚基礎のコンクリート施工。
1927年（昭和2年）：両側の組み立て、ケーブルクレーンによる組み立て開始、センタークローズ、初代橋梁竣工。
1928年（昭和3年）2月12日：高森線開通。
2016年（平成28年）：熊本地震により不通、損傷。
2017年（平成29年）12月22日：全線復旧費用の予算案閣議決定。
2018年（平成30年）3月3日：復旧工事着工。
2021年（令和3年）：撤去工事安全祈願祭、旧橋梁解体工事完了。
2022年（令和4年）：新橋架設工事着工、新橋完成。
2023年（令和5年）：レール締結式、試運転開始、営業運転再開（新橋供用開始）。

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