第二次世界大戦期アイルランドの局外中立

第二次世界大戦下のアイルランド：揺れる中立政策

1939年、ヨーロッパに第二次世界大戦の火の手が上がった時、アイルランドはエイモン・デ・ヴァレラ首相の主導の下、中立政策を採択しました。これはアイルランド議会（ウラクタス）において決定されたものでした。戦争中、イギリスからのドイツ軍機の誤爆や、連合国・枢軸国双方によるアイルランド商船への攻撃など、数々の困難に見舞われましたが、アイルランドは最後まで中立を堅持しました。

戦前のアイルランドとイギリス

当時、アイルランドは名目上は大英帝国の自治領であり、イギリス連邦の一員でした。しかし、アイルランド独立戦争を経て事実上の独立を果たしており、1921年の英愛条約では「主権、独立、民主主義国家」と宣言されていました。1937年には新憲法が制定され、1931年のウェストミンスター憲章によって、イギリスの参戦がアイルランドの参戦を自動的に意味するものではなくなっていました。とはいえ、アイルランドとイギリスの関係は複雑で、1938年まで英愛貿易戦争が続いたほどでした。名目上のイギリス国王との関係は1948年まで継続されました。

国内における支持と葛藤

アイルランドの中立政策は国民の支持を得ていました。多くのアイルランド国民がイギリス軍に入隊し、中にはエース・パイロットとして活躍する者もいました。しかし、イギリス軍や連合国軍と戦うため脱走したアイルランド国防軍兵士たちは、戦後、差別や年金剥奪といった困難に直面しました。また、イギリスへの出稼ぎ労働者も多く存在しました。一方、一部のアイルランド共和主義者はナチス・ドイツの勝利に期待を寄せていました。こうした複雑な状況下で、アイルランド政府は中立政策を維持しようと努めました。

中立政策の実践と困難

中立政策を貫くには、厳格な中立と、必要であれば侵攻を撃退する備えとのバランスが必要でした。公式には中立を主張しながらも、連合国との非公式な協力は行われていました。例えば、ノルマンディー上陸作戦はアイルランドからの気象情報に基づいて決定されました。ラジオ放送の検閲、天気予報の一時停止など、情報操作も行われました。また、戦争経済下では、物価上昇や物資不足、闇市場の発生といった問題も発生しました。

IRAとアイルランド共和主義

アイルランドには親ファシスト、反ファシスト運動が存在し、IRAは独自の活動を行っていました。アイルランド政府はIRAの活動を抑制しようとしましたが、一部のIRA関係者はドイツと接触し、アイルランドの中立政策を脅かす可能性がありました。1940年、IRAの指導者ショーン・ラッセルはドイツに渡り軍事訓練を受けましたが、帰国途中で亡くなりました。ドイツはIRAの能力を過大評価しており、1943年までにIRAは壊滅状態に陥りました。

海運と貿易

戦争によりアイルランドの海運は大きな打撃を受けました。アイルランドの商船は中立旗を掲げて航海しましたが、連合国・枢軸国双方から攻撃を受け、多くの船員が犠牲になりました。アイルランドの港はイギリス船の修理に使われる一方、Uボートの基地として利用されたという噂は確認されませんでした。

デ・ヴァレラと外交政策

デ・ヴァレラ首相にとって中立政策は、アイルランドの主権を守るための手段でした。彼は国際舞台でアイルランドの主権を主張し、中立を堅持しました。1940年にはイギリスからアイルランド統一を条件とした中立放棄の提案を受けましたが、これを拒否しました。

英米との関係

アイルランドの中立政策は、イギリスとアメリカとの関係に影響を与えました。イギリスはアイルランドの港湾使用を希望していましたが、デ・ヴァレラはこれを拒否しました。しかし、アイルランドは連合国と密かに協力し、イギリスの軍事作戦を支援していました。アメリカもアイルランドの中立政策を注視していました。

戦後への影響

戦争後、アイルランドの中立政策は国際連合加盟の時期を遅らせる要因となりました。ソ連の拒否権行使により、アイルランドの国連加盟は1955年までずれ込みました。

まとめ

アイルランドの中立政策は、第二次世界大戦という国際的な激動期において、アイルランド独自の複雑な歴史的、政治的状況の中で選択されたものです。中立を維持しながらも、イギリスやアメリカとのかかわり、国内における様々な勢力の存在、そして国際社会からの様々な圧力の中で、アイルランド政府は苦悩しながらも独自の道を歩んだと言えるでしょう。その選択が戦後のアイルランド、ひいては国際社会にどのような影響を与えたのか、歴史家は今もなお議論を続けています。

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