第1アポーニー四重奏曲

フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが手掛けた弦楽四重奏曲集の一つ、「第1アポーニー四重奏曲」は、音楽愛好家アントン・ゲオルク・アポーニー伯爵へ献呈された一連の作品群の一部を成しています。当初は第2アポーニー四重奏曲（作品74）と合わせて全6曲として構想されましたが、出版に際しては前後半3曲ずつ、それぞれ作品71（第1集）と作品74（第2集）として分けられました。

作曲背景と時期

ハイドンは1792年の夏に最初のロンドンでの成功を収めてウィーンへ帰国した後、新たな弦楽四重奏曲の創作に取り掛かります。この「第1アポーニー四重奏曲」も、同時期に作曲された第2集と共に、概ね1793年に完成されたとされています。これらの曲が、ロンドンの興行師ヨハン・ペーター・ザーロモンの依頼によるものなのか、あるいはハイドン自身の内発的な動機によるものなのかは、資料からは明確に判別できません。しかし、ハイドンが1794年に作成したものの現在は所在不明となっている「ロンドン手帳」に基づき、伝記作家アルバート・クリストフ・ディースが記した作曲リストには「6曲の四重奏曲」として明記されており、これがアポーニー四重奏曲として知られる全6曲を指していると考えられています。

自筆譜には「1793年」と記されており、これが作曲年の根拠となっています。ただし、ハイドン全集に収められた校訂報告では、現存する自筆譜の詳細な分析に基づき、作品71を構成する3曲のうち、特に第69番と第70番の2曲については、1792年のうちに既に作曲が開始されていた可能性が示唆されています。

初演と出版

これらの四重奏曲は、ロンドンにおいて1794年の3月10日、24日、31日にザーロモンが主催した予約演奏会シリーズの中で初演されました。記録によると、全6曲の中から2曲が演奏されたとされていますが、具体的にどの作品が披露されたのかは今日では不明です。

出版はロンドンのコリ=デュセック社から行われました。この際に、本来全6曲として構想されていたものが分割され、作品71として3曲がまとめられ、「第1アポーニー四重奏曲」という通称で広く知られるようになります。献呈先であるアントン・ゲオルク・アポーニー伯爵は、当時ウィーンでハイドンを含む多くの音楽家を支援していた重要なパトロンの一人でした。

構成

「第1アポーニー四重奏曲」作品71を構成する3曲は、ハイドン作品目録（ホーボーケン番号）においてHob. III: 69, 70, 71として分類されています。自筆譜上にはこれらの曲順に関する指定は見られませんが、出版時や慣例として以下の順序で扱われるのが一般的です。

弦楽四重奏曲第69番 変ロ長調 作品71-1 Hob. III: 69
弦楽四重奏曲第70番 ニ長調 作品71-2 Hob. III: 70
* 弦楽四重奏曲第71番 変ホ長調 作品71-3 Hob. III: 71

これらの楽曲は、ハイドンが最初のロンドン滞在で吸収した新しい音楽的要素と、長年にわたり培ってきた弦楽四重奏の技法が融合した、円熟期を代表する傑作群であり、その後の時代の作曲家たちに大きな影響を与えました。

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