第1期順位戦

第1期順位戦と第6期名人戦

将棋界の歴史において、現代につながる制度の礎が築かれたのが1947年度です。この年に行われた「第1期順位戦」は、それまでの名人戦挑戦者決定方式を大きく刷新した画期的な棋戦であり、同時にその順位戦を勝ち抜いた挑戦者と名人が激突した「第6期名人戦」が開催されました。この記事では、これら二つの重要な棋戦について詳細を記します。

順位戦制度の誕生

第5期までの名人戦では、主に八段の全棋士が参加するリーグ戦を2年かけて行い、名人への挑戦者を決定していました。しかし、第1期順位戦からは制度が一新されました。最大の変更点は、参加する全ての棋士を実力に応じてA級、B級、C級（この当時はそれぞれ八段戦、六・七段戦、四・五段戦に相当）の三つのクラスに分け、年間を通じてリーグ戦を行い、それによって翌年度のクラス分けや名人挑戦者を決定するという方式が採用されたことです。これにより、年間を通してより多くの棋士が競争に参加し、実力に応じたクラスで研鑽を積む機会が生まれました。第1期順位戦は、まさにこの新しいクラス制・順位制の最初の実施例となります。

第6期名人戦への道

第1期順位戦は、第6期名人戦の挑戦者を決めるための予選も兼ねていました。最も上位クラスである八段戦（A級相当）でトップとなった棋士が、第5期名人である木村義雄に挑戦する権利を得ます。順位戦の成績は、翌年度の第2期順位戦におけるクラス分けにも大きく影響しました。

クラス分けと挑戦者決定

第1期順位戦は、参加棋士を以下の3クラスに分けてリーグ戦が実施されました。

八段戦: 次期のA級に相当。ここでの1位が第6期名人戦の挑戦者となります。下位7名は次期B級へ降級となります。
六・七段戦: 次期のB級に相当。ここでの1位は次期A級へ昇級となります。下位6名は次期C級へ降級となります。
四・五段戦: 次期のC級に相当。ここでの1位は次期B級へ昇級となります。

最終的な「第2期順位戦」のクラス分けは、第1期順位戦全体の順位に基づいて決定されました。全体1位は第6期名人戦の挑戦者となり、名人戦敗者は第2期A級1位となります。全体2位から8位が次期A級、9位から24位が次期B級、25位以下が次期C級に振り分けられました。

順位決定方式：持ち点制度

順位は、特殊な持ち点制度によって決定されました。各対局の結果に応じて点が与えられ、1局あたりの平均点を算出します。勝つと120点、負けると20点が与えられます。さらに、クラスによって平均点に補正が加えられました。

八段戦の棋士は平均点に35点を加算。
四・五段戦の棋士は平均点から35点を減算。
六・七段戦の棋士は平均点そのまま。

この持ち点が高い順に第1期順位戦の全体順位が決定され、それが第2期順位戦の開始順位に反映されました。ただし、六・七段戦や四・五段戦からA級・B級へ昇級した棋士は、同じクラスで勝ち越した棋士よりも下位となる調整が行われました。例えば、六・七段戦で12勝2敗という好成績を収めた升田幸三の得点（(12×120 + 2×20) ÷ 14 = 106点）は、八段戦で6勝7敗だった花田長太郎の得点（35 + (6×120 + 7×20) ÷ 13 ≈ 101点）を上回ったため、第2期A級では升田が7位、花田が8位となりました。

リーグ戦の形式は、八段戦と六・七段戦は総当たり戦。四・五段戦は参加者が多かったため2組に分かれて総当たり戦が行われました。順位戦の持ち時間は各7時間でした。

第1期順位戦の結果

激しい戦いが繰り広げられた第1期順位戦では、各クラスで昇級や降級を巡るドラマがありました。

八段戦: 名人挑戦権をかけた争いは熾烈を極め、塚田正夫、大野源一、萩原淳の3名が同率となり、挑戦者決定のためのプレーオフリーグが行われました。このプレーオフを塚田八段が制し、見事第6期名人戦の挑戦権を獲得しました。また、次期A級残留をかけた戦いでも花田長太郎、村上真一、渡辺東一の3名が同率となり、残留プレーオフの結果、花田八段が残留を果たしました。
六・七段戦: このクラスからは升田幸三が圧倒的な成績で1位となり、次期A級への昇級を決めました。
* 四・五段戦: このクラスの1位である加藤博が、次期B級への昇級を果たしました。

第6期名人戦七番勝負

第1期順位戦を勝ち抜いた挑戦者・塚田正夫八段と、当時の名人である木村義雄による七番勝負は、将棋史に残る名勝負となりました。東京の様々な対局場で行われたこの戦いは、塚田八段が4勝2敗の成績で木村名人を破り、名人位を奪取するという歴史的な結果をもって幕を閉じました。このシリーズでは、正規の勝敗以外に持将棋や千日手となる対局も記録されています。塚田正夫の新名人の誕生は、将棋界に新たな時代の到来を告げる出来事でした。

第1期順位戦と第6期名人戦は、新しい棋戦制度の始まりと、それに伴う棋士たちの熱い戦い、そして名人位の移動という、将棋界にとって記念碑的な出来事が詰まった一年でした。この時に確立された順位戦制度は、その後も日本の将棋界における主要な棋戦として発展していくことになります。

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