大野源一

大野源一：振り飛車の神様と称された棋士の生涯

大野源一は、1911年9月1日、東京府東京市（現在の東京都台東区）に生まれ、1979年1月14日、67歳で逝去した将棋棋士です。棋士番号は7番。師匠は木見金治郎九段でした。

東京出身ながら大阪の木見金治郎九段の内弟子となり、角田三男、升田幸三、大山康晴といった著名な棋士たちと切磋琢磨しました。1929年には四段に昇段し、プロ棋士としての道を歩み始めます。

戦前は居飛車党でしたが、戦後、1947年に順位戦が開始されると、積極的に振り飛車を採用するようになりました。それまでの長丁場だった対局が1日制の持ち時間7時間になったことが、その転換点と言われています。長考の必要が少ない振り飛車は、短縮された持ち時間の中で有利に働いたのです。

大野源一の振り飛車は、江戸時代中期以降は廃れていた戦法をプロの戦場で復活させた功績があり、「振り飛車の神様」と称されるほど高い評価を得ました。升田幸三の向かい飛車、大山康晴の四間飛車に対し、大野源一は三間飛車を得意戦法として用いました。その戦法は、大内延介や近藤正和といった後進の棋士にも受け継がれ、現在にまで影響を与えています。

14世名人である木村義雄は、当時不利とされていた振り飛車を研究し、A級順位戦に復帰した大野源一の棋力と戦法を高く評価しました。その巧みな振り飛車の捌きは、弟子の升田幸三からも「日本一」と絶賛され、大山康晴も「受けだけでなく攻める振り飛車」としてその実力を認めていました。現代の棋士である久保利明も、大野源一の棋風に影響を受けていると語っており、将棋年鑑のアンケートで「故人を含めて指したい棋士」として大野源一の名前を挙げています。

大野源一自身は、振り飛車について、美濃囲いが堅牢で、左翼を突破されても玉にすぐに響かない点が、自身の持ち味である捌きに合っていると語っていました。

しかし、大野源一の棋士人生は順風満帆ではありませんでした。1963年のA級順位戦で塚田正夫との対局では、王手されたにもかかわらず、反則となる手を指してしまい、反則負けを喫しました。これは、王手に対して「玉を逃す」「合駒をする」「王手している駒を取る」以外の行為が反則とされている将棋の規定によるものです。

1969年のB級1組順位戦最終局では、A級昇級を懸けて米長邦雄と対戦しました。消化試合だった米長に対し、大野源一は勝利すれば当時最年長でのA級昇級記録更新となる大一番でしたが、米長の全力プレーの前に敗れ、昇級を逃しました。

タイトル戦では名人戦挑戦者決定プレーオフで4度敗退するなど、タイトル獲得には至りませんでしたが、一般棋戦では1973年の王座戦で決勝トーナメントを勝ち抜き、62歳で中原誠王座への挑戦権を獲得しました。しかし、三番勝負は0勝2敗で敗北しました。

1975年には、関西将棋会館建設の建設委員長を務めるなど、将棋界の発展にも貢献しました。

1979年1月14日、踏切事故で急逝しました。享年67歳。

大野源一は五人兄弟の長男であり、末弟は漫才師のあした順子・ひろし（ひろしの方）でした。律儀な性格で知られ、対局通知への返信を欠かさなかったことでも有名です。

彼の棋風と人生は、後世の棋士たちに大きな影響を与え続け、今もなお語り継がれています。その功績は、将棋史に燦然と輝く一頁と言えるでしょう。

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