第13SS武装山岳師団

第13SS武装山岳師団「ハンジャール」

第13SS武装山岳師団「ハンジャール」は、第二次世界大戦中の1943年、当時のドイツ第三帝国の武装親衛隊の一部隊として、バルカン半島のボスニア地域で創設されました。この師団の最大の特徴は、その兵員の大部分が地元のイスラム教徒、特にボシュニャク人などで構成されていた点にあります。将校および下士官は主にドイツ本国出身者（ライヒスドイッチュ）か、その地に長年居住するドイツ系住民（フォルクスドイッチュ）によって占められていました。多民族・多宗教が混在するバルカンの地で、特にムスリム主体の部隊が編成されたことは、当時の親衛隊組織の中でも異例であり、その背景には様々な政治的、戦略的な意図がありました。

師団名の由来と変遷

この師団の名称は何度か変更されています。創設当初の1943年3月には「クロアチアSS義勇師団」として知られ、同年10月には「第13 SS義勇 (ボスニア・ヘルツェゴヴィナ) 山岳師団 (クロアチア)」と改称されました。最終的に1944年6月から「第13 SS武装山岳師団「ハンジャール」 (クロアチア第1)」の名称が正式に用いられるようになりました。師団名に冠された「ハンジャール（Handschar）」は、アラビア語で「khanjar」と記される、ムスリムの男性が携帯する三日月形の短剣に由来します。ボスニアやクロアチアの地域では「Handžar」と表記され、湾曲した刀剣を意味します。この刀剣はボスニアの歴史的なシンボルの一つであり、師団章や襟章のデザインにも取り入れられました。なお、日本の文献などで見られる「ハントシャール」という表記は、ドイツ語の単語に似たスペルからの誤解であり、原音に近いのは「ハンジャール」です。

編成と外見

師団の編成は1943年3月5日に開始され、同年7月までには約2万人規模の部隊となりました。隊員の制服は基本的な武装親衛隊のスタイルでしたが、襟章はSSのルーン文字ではなく、ハンジャールを手にした特別なデザインが採用されました。また、ムスリム隊員が多くを占めることから、彼らの慣習に配慮し、中東地域で伝統的に着用されるフェズ帽の着用が認められていました。これに対し、非ムスリムの隊員は通常の親衛隊の山岳帽を着用していました。

戦歴と実態

「ハンジャール」師団は主に、本拠地であるバルカン半島の山岳地帯におけるパルチザン掃討作戦に投入されました。作戦の初期段階では、セルビア人の右派民兵であるチュトニックなどを相手にし、後期にはヨシップ・ブロズ・チトー率いる左派の共産主義パルチザン部隊と戦いました。これらの対ゲリラ戦において、特に相手が正教徒のセルビア人やユダヤ人であった場合、その戦闘は単なる軍事作戦を超え、宗教的な対立の様相を呈することがありました。これにより、師団の士気が高まる一方で、しばしば非人道的な行為や虐殺が発生したと記録されています。このような歴史的な経緯は、戦後のバルカン地域における民族・宗教間の禍根の一つとなりました。

一方、東部戦線におけるソ連軍との戦いでは、目立った戦果を挙げることはできませんでした。1944年後半に南ハンガリーへ転戦しソ連軍を迎撃しましたが、多数の隊員が敵前逃亡する事態となり、師団付きのイマームであるアブドゥラ・ミハイロヴィッチに率いられた一部隊が組織的に離脱するといった出来事も発生しました。

終焉とその後

1945年5月7日、ドイツの敗戦が迫る中、「ハンジャール」師団はオーストリアでイギリス軍に降伏しました。降伏後、ムスリムの隊員の多くは、敵対していたチトー率いるパルチザン勢力に引き渡されることになりました。その結果、下級士官や下士官を中心に、マエボアなどで多数が処刑されたとされています。しかし、全ての隊員が捕らえられたわけではなく、数百人規模の元隊員が追及を逃れて中東地域へ渡航し、第一次中東戦争においてアラブ解放軍の一員としてイスラエル軍と戦いに加わったとも言われています。

師団の指揮官は、ヘルベルト・フォン・オプヴルツァー、カール＝グスタフ・ザウバーツヴァイク、そしてデジデリウス・ハンペルと引き継がれました。また、この師団の結成には、エルサレムのムフティーであり、反英・反ユダヤ主義者であったアラブ民族主義者のアミーン・フサイニーが深く関与したとされています。姉妹師団としては、同じく武装親衛隊に所属した山岳師団である第7SS義勇山岳師団「プリンツ・オイゲン」が挙げられます。

「ハンジャール」師団の歴史は、第二次世界大戦下における枢軸側の特殊な部隊編成の一例であるとともに、バルカン半島の複雑な民族・宗教問題、そして戦後まで続くその影響を示すものと言えるでしょう。

もう一度検索