第3次グラッドストン内閣

第3次グラッドストン内閣：アイルランド自治法案と内閣崩壊

1886年2月から8月までの短い期間、イギリスの政界を舞台に繰り広げられた第3次グラッドストン内閣の物語は、アイルランド自治問題という大きな課題に翻弄された激動の時代を反映しています。自由党党首ウィリアム・グラッドストンを首相とするこの内閣は、その成立から崩壊まで、数々の政治的ドラマを生み出しました。

成立への道：選挙とアイルランド自治への揺らぎ

前内閣である第1次ソールズベリー侯爵内閣の時代、1885年11月に行われた総選挙は、自由党にとって予想外の勝利をもたらしました。ジョゼフ・チェンバレンによる効果的な選挙運動が功を奏し、自由党は圧勝。この結果、自由党334議席、保守党250議席、アイルランド議会党86議席という議席配分となりました。

それまでアイルランド自治問題に関して明確な立場を示してこなかったグラッドストンでしたが、この選挙結果を受けて、アイルランド自治の方針を公表。これにより、アイルランド議会党との連携が実現し、第1次ソールズベリー侯爵内閣は下院の採決で敗北、総辞職に追い込まれました。

女王ヴィクトリアはグラッドストンを快く思わず、アイルランド自治に反対する閣僚候補を打診しましたが、彼らはいずれもグラッドストンの権威に逆らうことを拒否。結局、グラッドストンに三度目の組閣の大命が下りました。しかし、ホイッグ派の多くはアイルランド自治に反対し、入閣を拒否。それでもグラッドストンは、入閣に同意したホイッグ貴族を要職に登用し、内閣を組織しました。新急進派のチェンバレンも入閣しましたが、グラッドストンの厚遇は受けず、希望していた植民地大臣のポストではなく自治長官に任命されています。

アイルランド自治法案と内閣の分裂

第3次グラッドストン内閣の政策の中心は、アイルランド自治法案でした。グラッドストンはアイルランド担当大臣ジョン・モーレイとともに法案を策定。3月13日の閣議で発表されましたが、チェンバレンとスコットランド担当大臣ジョージ・トレベリアンは、この法案がアイルランドの独立を招きかねないとして激しく反発、辞任に追い込まれました。

この事態をきっかけに、チェンバレンら新急進派はホイッグ派と合流し、自由統一党を結成。自由党は分裂しました。女王もアイルランド自治法案に反対し、保守党と自由統一党の連携を水面下で工作。4月8日に議会に提出されたアイルランド自治法案は、6月8日、93人の自由党議員の造反により否決されました。

解散総選挙と内閣総辞職

法案否決後、グラッドストンは総選挙を実施。アイルランド自治を訴え演説に精力的に取り組みましたが、そのアイルランド一辺倒の姿勢は有権者の支持を得られず、保守党の圧勝という結果に終わりました。保守党316議席、自由党191議席、自由統一党78議席、アイルランド議会党85議席という結果を受け、グラッドストンは7月20日に内閣総辞職。第2次ソールズベリー侯爵内閣が成立しました。

まとめ

第3次グラッドストン内閣は、アイルランド自治という大きな課題に直面し、党内分裂や女王との対立など、数々の困難に見舞われました。わずか数ヶ月で終焉を迎えたこの内閣は、ヴィクトリア朝時代のイギリス政治における激動の時代を象徴する出来事として歴史に刻まれています。グラッドストンの強い意志と、アイルランド自治問題を取り巻く複雑な政治状況が、この内閣の短命と、その後のイギリス政治の展開に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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