第1次ソールズベリー侯爵内閣

第1次ソールズベリー侯爵内閣：少数与党と政局の綱渡り

1885年7月から1886年2月まで、イギリスの首相を務めたのは第3代ソールズベリー侯爵ロバート・ガスコイン＝セシルでした。彼の率いる保守党内閣は、歴史に「第1次ソールズベリー侯爵内閣」として刻まれています。この内閣は、自由党との激しい政争、アイルランド問題への対応、そして大胆な外交政策といった、数々の重要な出来事を背景に誕生し、また終焉を迎えることになります。

誕生の経緯：自由党の失脚と保守党の戦略

当時、イギリス政界では自由党が優勢でした。しかし、第2次グラッドストン内閣はアイルランド強圧法の更新問題で内部対立を深めます。この隙を突いた保守党は、ランドルフ・チャーチル卿の主導の下、アイルランド議会党との連携に成功。グラッドストン内閣の予算案修正動議を可決させ、内閣の総辞職を突きつけました。

保守党自身も、党内分裂を抱えていました。党首不在の状況下、庶民院ではサー・スタッフォード・ノースコート、貴族院ではソールズベリー侯爵がそれぞれ党を率いるという二元的な指導体制を敷いていたのです。ノースコートは党内の支持を十分に得られず、チャーチル卿やアーサー・バルフォアといった勢力に押され気味でした。そのため、保守党をまとめ上げられる人物として、ソールズベリー侯爵が自然と注目を集めることとなります。

女王ヴィクトリアから組閣の大命を受けたソールズベリー侯爵でしたが、保守党は自由党に大きく議席数を劣る少数派でした。しかし、グラッドストンも即時解散総選挙を避けたいと考えていたことから、保守党は暫定的に政権を担うことになります。これは、自由党が保守党政権への攻撃を控えることを条件とした、いわば両党間の暗黙の合意に基づくものでした。

政策：アイルランドへの譲歩とビルマ併合

第1次ソールズベリー侯爵内閣は、常にアイルランド議会党の動向に左右される、不安定な政権でした。アイルランドの農民を支援するため、アシュバーン法が制定されました。これは、小作人に低利で土地を購入させることで自作農化を促進するための政策です。

外交面では、インド担当大臣だったチャーチル卿とインド総督ダファリン卿が主導し、ビルマへの軍事侵攻が実施されました。この戦争（第三次英緬戦争）の結果、ビルマは英領インド帝国に併合されることになります。この大胆な軍事行動は、イギリス帝国の勢力拡大を示す象徴的な出来事でした。

崩壊：アイルランド自治問題と自由党の躍進

1885年11月に行われた総選挙では、自由党が圧勝。保守党は依然として少数派でした。しかし、キャスティング・ボートを握るアイルランド議会党は、グラッドストンのアイルランド自治への姿勢に不満を持っていました。そのため、ソールズベリー内閣は辛うじて政権を維持していました。

しかし、グラッドストンがアイルランド自治の方針を公表すると、状況は一変します。アイルランド議会党が自由党と連携し始め、1886年1月、庶民院の採決でソールズベリー内閣は敗北を喫し、総辞職に追い込まれました。こうして、わずか数ヶ月の寿命だったソールズベリー内閣は幕を閉じ、代わって第3次グラッドストン内閣が成立することとなります。

この短命の内閣は、アイルランド問題というイギリス政治の難問に翻弄されながらも、重要な政策決定をいくつも行った、激動の時代を象徴する存在でした。

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