第2次ソールズベリー侯爵内閣

第2次ソールズベリー侯爵内閣：自由統一党との連携とアイルランド問題

1886年7月から1892年8月まで続いたイギリスの第2次ソールズベリー侯爵内閣は、保守党党首である第3代ソールズベリー侯爵ロバート・ガスコイン＝セシルを首相とする政権でした。保守党単独内閣でしたが、自由統一党からの閣外協力が重要な役割を果たしました。

成立までの経緯

この内閣の成立は、それ以前の政治情勢と深く関わっています。1886年2月に発足した第3次グラッドストン内閣（自由党）は、アイルランド自治法案を提出しましたが、自由党内にも反対派がいました。 ホイッグ貴族の領袖や急進派議員らはアイルランド自治に反対し、自由党を離れて自由統一党を結成、保守党と連携して自治法案を否決させました。

グラッドストン首相は総選挙に打って出ましたが、保守党が勝利。しかし、保守党単独では過半数に届かず、自由統一党が重要な役割を担うことになります。ソールズベリー侯爵は自由統一党に連立を打診しましたが、自由統一党は閣外協力という形で保守党を支えることを選択しました。こうして、ソールズベリー侯爵は女王から組閣の大命を受け、保守党単独内閣を発足させたのです。しかし、政権運営は自由統一党の協力に大きく依存する状況となりました。

自由統一党の指導者の一人であるチェンバレンは、地方自治の拡大や土地改革などを政策の条件として提示しました。このため、ソールズベリー侯爵は保守的な立場でありながら、一定の政治改革を推進することになります。

主要政策

第2次ソールズベリー侯爵内閣の主な政策は次のとおりです。

アイルランド政策: アイルランド担当大臣アーサー・バルフォアが主導。アイルランド独立運動の弾圧と、小作農の土地購入を促進する「バルフォア法」の制定を行いました。
地方自治: イギリスとウェールズにおける地方自治体の拡充。行政州や特別市に分割し、それぞれに議会を設置しました。
農業政策: チェンバレンの後押しもあり、労働者への低利での土地分配を推進する政策を実施。小作農の土地所有を促進する政策も実施されました。


さらに、外交政策では、ビスマルク率いるドイツとの連携を重視。地中海協定を締結するなど、イギリスを「ビスマルク体制」の中に組み込みました。また、列強によるアフリカ分割にも積極参加し、勅許会社を設立して植民地経営を進め、海軍増強にも力を入れています。

崩壊へ

1892年に行われた総選挙では、自由党が勝利。ソールズベリー侯爵内閣は総辞職し、第4次グラッドストン内閣が発足しました。第2次ソールズベリー侯爵内閣は、自由統一党の協力を得て成立し、アイルランド問題、地方自治、農業政策、そして積極的な外交政策など、様々な課題に取り組みました。しかし、最終的には選挙での敗北によりその幕を閉じました。この内閣は、19世紀後半のイギリス政治の大きな転換期における重要な局面を示すものです。

参考文献

飯田洋介『ビスマルクと大英帝国 伝統的外交手法の可能性と限界』勁草書房、2010年
池田清『政治家の未来像 ジョセフ・チェムバレンとケア・ハーディー』有斐閣、1962年
尾鍋輝彦『最高の議会人 グラッドストン』清水書院、1984年
新版『最高の議会人　グラッドストン』清水書院、2018年
神川信彦、解説・君塚直隆『グラッドストン 政治における使命感』吉田書店、2011年
坂井秀夫『政治指導の歴史的研究 近代イギリスを中心として』創文社、1967年
高橋純一『アイルランド土地政策史』社会評論社、1997年
竹内幸雄『イギリス自由貿易帝国主義』新評論、1990年
村岡健次、木畑洋一 編『イギリス史〈3〉近現代』山川出版社、1991年

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