第44回先進国首脳会議

第44回先進国首脳会議（G7シャルルボワ・サミット）

2018年6月8日から9日にかけ、カナダのケベック州ラ・マルベイで開催された第44回先進国首脳会議は、参加国間の協調が試される異例の場となりました。主要7カ国（カナダ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア）の首脳が一堂に会したこの会議では、特にアメリカと他の主要国との関係悪化に大きな注目が集まりました。このサミットは、フランスのメディアなどから「G6+1」と揶揄されるほど、アメリカの孤立が浮き彫りとなる事態となりました。これは、サミットの議論内容だけでなく、アメリカが一方的にパリ協定やイラン核合意から離脱したこと、鉄鋼・アルミ製品への関税を巡って同盟国と対立したことなどが背景にあります。かつてはロシアを含むG8として協議が行われていましたが、2014年以降は主要7カ国での開催が続いており、サミット初日にアメリカからロシアの再参加を求める提案があったことも話題となりました。カナダでのG7サミット開催は、1981年以降今回で6回目にあたりますが、ケベック州での開催は初めてでした。

開催地の選定と準備

サミットの開催地には、美しい自然景観と十分な安全性が考慮され、ケベック州シャルルヴォワ・エスト郡にあるラ・マルベイ市が選ばれました。会場となったのは、高級ホテル「ル・マノワール・リシュリュー」です。この地域はアメリカ大統領も避暑で訪れる場所ですが、サミット開催にあたっては、高速インターネット環境の整備、携帯電話用の電波塔設置、厳重な保安フェンスの設置など、およそ4億6500万米ドルを投じた大規模な準備が行われました。当初はブリティッシュコロンビア州のケロウナも候補地の一つでした。

主要議題

議長国を務めたカナダのジャスティン・トルドー首相は、サミットの重要課題として、以下の5点を提案しました。

1. 誰もが恩恵を受ける経済成長への投資
2. 未来の仕事への備え
3. ジェンダー平等と女性の地位向上促進
4. 気候変動、海洋保護、クリーンエネルギー分野での協力
5. より平和で安全な世界の構築

これらの議題の中でも、特に「公正な成長」（Croissance Équitable）という経済概念が強調されました。これは、政府や機関投資家が投資判断を行う際に、労働者の最大利益（適切な賃金や年金を含む）を常に考慮すべきだという考え方です。これは19世紀のローマ教皇の回勅「レールム・ノヴァールム」に影響を受けたもので、労働者の代表が年金委員会のメンバーとなることなどが、この考え方を推進するものとされました。

また、ジェンダー平等は重要な柱の一つでした。カナダとフランスの思想家たちは、あらゆる経済分野における男女間の賃金格差を定量的に測定し、是正措置を講じる必要性を訴えました。サミットに至るまでの準備会合では、カナダやヨーロッパの投資家、政策担当者らが、資産運用において女性の権利向上などをより積極的に考慮する責任があるとの認識で一致しました。これを受け、トルドー首相は、世界の資本市場におけるジェンダー多様性向上を目指すイニシアチブを発表しました。カナダの主要な年金基金などが初期資金として合計400万ドルを拠出し、連邦政府も500万ドルを拠出する計画が示されました。サミット開催に向け、ジェンダー平等諮問委員会が新設され、メリンダ・ゲイツ氏らが共同委員長に就任しました。

気候変動の議論では、世界年金会議のエコノミスト、ニコラス・J・ファーズリー氏が指摘するように、アメリカがパリ協定から離脱する姿勢を示しているにもかかわらず、他のG7諸国は持続可能な開発目標達成に向けた協力関係の強化を図る方向へと傾きました。これは、トルドー首相が推進する多国間協調の姿勢によるところが大きく、カナダやアメリカの機関投資家の間でも、環境、社会、企業統治（ESG）の要素を考慮した投資へのシフトが急速に進んでいることが背景にありました。

出席者と招待国

サミットにはG7各国の首脳に加え、欧州連合の代表者も常連参加者として出席しました。イタリアのジュゼッペ・コンテ首相は今回が初めての参加となり、イギリスのテリーザ・メイ首相と欧州連合のジャン＝クロード・ユンケル欧州委員長にとっては最後の参加となりました。

G7の通常会合とは別に設けられたアウトリーチ会合には、12カ国の首脳と4つの国際機関の代表が招待され、幅広い議論が行われました。

アメリカ大統領の言動とその波紋

このサミットで最も大きな波紋を呼んだのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領の一連の言動でした。サミットが「G6+1」と皮肉られた背景には、前述の通り、アメリカの国際協調からの距離や貿易摩擦がありました。

特に物議を醸したのは、同盟国である日本の安倍晋三首相や議長国のカナダのトルドー首相に向けられた発言です。トランプ大統領は、安倍首相に対し移民問題を揶揄するような発言を行ったと報じられました。さらに、サミットを早期に切り上げ、北朝鮮との首脳会談に向かう途上で、ツイッターを通じて共同宣言への同意を撤回するよう指示し、トルドー首相を個人的に攻撃するような言葉を投げかけました。これに加え、アメリカのピーター・ナヴァロ大統領顧問もカナダ首相を強く非難する発言を行い、後に不適切だったと謝罪しましたが、発言内容は撤回しませんでした。

サミットへの評価

アメリカのこれらの対応は、外交政策の専門家や元外交官から厳しい批判を受けました。彼らは、アメリカが長年にわたる同盟関係を損ない、国際的な協調体制を弱体化させていると指摘しました。例えば、外交政策専門家のイアン・ブレマー氏は、「重要な長期的関係に、本当に深刻なダメージを与えるものだ」と述べました。また、政治学者のブライアン・クラース氏は、このサミットが「トランプのせいで悲惨な結果となった」、「プーチンの最大の夢をかなえたことになる」とツイートしました。元アメリカ合衆国国務副長官のストローブ・タルボット氏は、民主主義世界にとって「最悪の悪夢」であり、G7が機能不全に陥ったと評しました。第44回G7サミットは、単なる経済・社会問題の議論の場にとどまらず、グローバルな協力体制の脆弱性と、主要国間の新たな緊張関係を象徴する会議となりました。

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