筑波移転反対闘争

筑波移転反対闘争は、1960年代後半、東京教育大学（現筑波大学の前身）を舞台に展開された、キャンパスの筑波研究学園都市への移転計画に対する学内の抗議運動です。この運動は、主に学生や大学院生が中心となり、移転そのものへの反対と、移転を巡る意思決定過程の不透明さ、すなわち審議の民主化を求めて起こされました。

闘争の背景には、東京教育大学が抱えていた構造的な課題がありました。大学は文京区大塚、目黒区駒場、渋谷区幡ヶ谷と都内に分散した三つのキャンパスを有しており、「タコ足大学」とも称される非効率な状況にありました。さらに、それぞれのキャンパスは手狭であり、特に大学院を持つ国立大学としては敷地面積が全国最小レベルでした。このため、大学側はかねてからキャンパス統合による移転を模索していましたが、財政や用地買収の困難から実現に至っていませんでした。

こうした中、1963年8月に政府が筑波研究学園都市建設計画を閣議決定し、その中核機能として国立総合大学を誘致する構想が明らかになると、東京教育大学がその候補として浮上しました。移転推進派は、これを大学の発展とキャンパス問題解決の好機と捉えました。しかし、大学の最高意思決定機関である評議会において、移転決定が一部学部の強い反対を押し切る形で進められたことが、学生や慎重派教官の反発を招くことになります。

1967年6月、文学部を中心とした学生たちが、強行された移転決定に反発し、授業放棄やピケットストライキを決行しました。この最初のストライキは夏期休暇中に一旦沈静化しましたが、翌1968年になると事態は一層緊迫しました。大学側が移転のための調査費計上を決定したことを受け、同年6月下旬からは事務棟を含む本館のバリケード封鎖という実力行使に発展します。このバリケードストライキは長期化し、理学部、教育学部、農学部にも波及し、学園全体が深い混乱に陥りました。

この時期は、国内外で学生運動が高揚していた時代であり、教育大学の闘争もまた、全共闘運動やベトナム反戦運動といった社会情勢とも連動しながら展開されました。学内では、文学部闘争委員会などを中心とした反民青系セクトが全学闘争委員会（全学闘）を結成し、大学当局や移転推進派教官と激しく対立しました。

闘争の長期化は大学運営に深刻な影響を及ぼしました。1969年1月には、文学部、理学部、教育学部、農学部の四学部の入学試験が中止されるという前代未聞の事態に至り、学長を含む評議員全員が引責辞任しました。しかし、後任の学長事務取扱（学長代行）が選出されると、大学当局は事態収拾のため強硬策に出ます。

1969年2月28日、学長代行の判断により、バリケードで封鎖されていた大塚および駒場の両キャンパスに機動隊が導入され、学生は排除されました。この強制排除は学内に強い反発を招き、文学部や教育学部の教授会は機動隊導入への抗議声明を発表しました。混乱の中、文学部の桜井正寅教授が急逝するという悲劇も起こりました。

機動隊導入後も、一部の学生によるキャンパス奪還を試みる動きはありましたが、大学当局による管理体制が強化され、学生運動は力を失っていきました。学内では授業再開に向けた動きが進み、特に文学部では、学生に「誓約書」への署名と引き換えに入構証を発行するという方法で大学の「正常化」が図られました。この措置は、多くの学生に苦渋の選択を迫るものでした。

一方、筑波への移転、そして新しい大学の設立計画は着実に進行しました。大学側と文部省がそれぞれ異なるアプローチで新大学像を模索する中で、最終的には両者の考えが混淆する形で具体化されました。1973年 9月25日に筑波大学法案が成立し、同年10月1日には筑波大学が開学、初代学長には東京教育大学で移転推進派の中心であった三輪知雄氏が就任しました。

東京教育大学は、筑波大学への移行期間を経て、段階的に閉学へと向かいました。文学部、理学部、体育学部は1977年3月に、教育学部、農学部は1978年 3月31日に定員が消滅し、この日をもって60年近い歴史を持つ東京教育大学は閉学しました。筑波移転反対闘争は、キャンパス移転という具体的な問題を巡りながらも、大学の自治、学内の意思決定構造、そして国家と大学の関係性を問い直す、日本の大学紛争史における重要な一ページを刻みました。

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