算木

算木（さんぎ）とは

算木（さんぎ）または算籌（さんちゅう）は、古代中国で生まれた計算道具です。細長い棒状の物体を縦横に並べることで数を表現し、それらを操作することで四則演算などの計算を行いました。算木は、現代の数学にも通じる高度な計算を可能にし、東アジアの数学発展に大きな役割を果たしました。

歴史

算木は、中国では紀元前から使われていたとされています。1954年には、戦国時代の楚の墓から算木が発掘されており、文献にも老子の言葉として「善く数える者は籌策（ちゅうさく）を用いず」という記述が残っています。これは、計算に長けた人は算木のような道具に頼る必要がないという意味ですが、算木が古くから存在したことを示唆しています。

13世紀頃にそろばんが普及するまでは、算木が計算の主要な道具でした。算木は、そろばんとは異なり、複数の未知数を含む代数方程式を解くことが可能でした。しかし、そろばんが普及すると、中国では算木を使った解法が失われてしまいました。一方、日本では江戸時代の数学者がそろばんと並行して算木を使用し、和算の発展に貢献しました。

算木の使い方

算木は、長さ3〜14cm程度の木製または竹製の細長い直方体です。これらの算木を縦または横に並べることで数を表現します。具体的には、1から5まではその数だけ算木を並べ、6以上は異なる向きの1本の算木で5を表しました。アラビア数字と同様に、左から上位の桁として数を表現します。隣の桁と区別するために、桁によって算木の向きを変え、奇数桁（一、百、万など）は縦式、偶数桁（十、千など）は横式で表しました。これは、「孫子算経」にも記述されています。

日本では、算木を使用する際に算盤（さんばん）と呼ばれる格子状の布の上で行いました。当初は中国と同様に縦式と横式を使い分けていましたが、江戸時代後期になると、算盤の格子で桁が識別できるため、縦式のみを使用する人が増えました。しかし、紙の上では格子がないため、従来通り縦式と横式を使い分けていました。

算木は2色に着色され、赤色の算木は正の数、黒色の算木は負の数を表しました。0は、算木を置かない空白で示し、後に碁石などを置いて明示するようになりました。このことから、算木を使うことで、正負の数や0の概念が理解されていたことがわかります。算木を使うことで、有理数の四則演算や高次方程式の解を求めることができ、分数の約分を互除法で求めることもできました。

算木数字

算木を紙に書き記す際には、正の数はそのまま書き、負の数は最後の桁に斜線を引いて示しました。この算木数字は、位取り記数法であり、横式では文字の高さを揃えるために縦棒を短く書きました。当初は0を表す記号がありませんでしたが、後に「〇」が使われるようになりました。この「〇」は、718年に瞿曇悉達によってインド数字から導入されたという説や、中国語で欠字を表す「□」から来ているという説があります。

13世紀には、南宋の数学者が4、5、9の数字を簡略化して書きやすくし、この新しい横式が最終的に蘇州号碼へと変化しました。しかし日本では、紙の上では従来の算木数字が使われ続けました。

代数記号

日本では、関孝和が算木数字を基に傍書法という代数記号体系を創り出しました。これにより、未知数を含む筆算が可能になり、和算が飛躍的に発展しました。関以降は、数を表す際に算木による数の表示と並んで、漢数字を位取り記数法で並べることも増えました。

Unicode

Unicodeの第5.0版では、算木にU+1D360からU+1D37Fの範囲が割り当てられています。横式の1から9がU+1D360からU+1D368、縦式の1から9がU+1D369からU+1D371です。ただし、Unicodeでは横式が一の位、縦式が十の位となっており、伝統的な使い方とは逆になっています。0の算木はU+3007（漢数字の〇）、負の斜線はU+20E5で示されます。

易占用の算木

易占で用いられる算木は、算術用のものより大型で、2〜3寸程度です。6本を組にして使用し、卦を記録・表示するために使われます。角材の4面のうち、連続した2面の中央に浅い彫り込みがあり、陰爻を示します。両端には八卦の漢字が書かれているものもあり、本筮法や中筮法で用いられます。

易者のシンボル

算木で表示した卦を意匠化したマークは、易占いの商標のように使われることがあります。古くは恋愛を表す「咸」、近代では開運を表す「泰」が使われています。

家紋

日本では、算木をモチーフにした家紋が複数存在します。「算木」、「丸に算木」、「丸に縦算木」、「石持ち地抜き算木」、「丸に一つ算木」、「丸に二つ算木」などがあり、算木が日本の文化に根付いていたことがわかります。

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