箙

箙（えびら）は、矢を入れて持ち運ぶための容器であり、「やなぐい」とも呼ばれます。現代ではあまり馴染みがありませんが、日本の歴史や文化において重要な役割を果たしてきました。この記事では、箙の構造や種類、使用方法、そして能との関わりについて詳しく解説します。

箙の構造と種類

箙は、基本的に矢を立てるための箱型の「方立（ほうだて）」と、矢を支えるための「端手（はたて）」で構成されています。端手には紐が取り付けられており、これを用いて腰や背中に固定します。素材や形状、装飾によって様々な種類があり、用途や身分によって使い分けられていました。

平箙（ひらえびら）: 最も一般的な箙で、実用的な形状をしています。
壷胡箙（つぼやなぐい）: 壷のような形状をした箙で、儀式などに用いられることが多いです。

箙の使い方

箙から矢を取り出す際は、まず矢尻の方を持ち、少し持ち上げて方立の固定から外します。そして、そのまま矢を引き抜きます。この方法は、矢籠（やろう）や空穂（うつぼ）といった他の矢を収納する道具でも共通しています。

箙は、実用的な道具であると同時に、武士の装いを飾るものでもありました。美しい装飾が施された箙は、戦場における武士の威厳を高める役割も果たしました。

能『箙』

能の演目に『箙』という作品があります。これは、寿永3年（1184年）の源平合戦である生田の森の合戦で、梶原景季が梅の枝を箙に挿して戦ったという故事に由来します。この能は、武士の勇壮さを表現した二番目物であり、箙が単なる道具以上の意味を持つことを示しています。

箙と関連するもの

矢立（やたて）: 筆記用具を携帯するための道具。
うつぼ（靫/空穂）: 箙と同じく矢を収納する容器。
* ウツボカズラ: 箙とは直接関係ありませんが、名前の響きが似ています。

箙は、日本の武具の歴史において重要な位置を占めています。その機能美や、能などの文化との関わりを通じて、日本の美意識や精神性を体現していると言えるでしょう。

もう一度検索