管弦楽のための協奏曲 (バルトーク)

管弦楽のための協奏曲

バルトーク・ベーラ作曲の「管弦楽のための協奏曲」は、1943年に完成した管弦楽曲であり、作曲者の晩年の傑作として知られています。全5楽章から構成され、演奏時間はおよそ38分。各楽器が高度な技巧を駆使して対等に響き合う様は、まさにオーケストラの妙技を凝縮したかのようです。

作曲の背景

この作品は、ボストン交響楽団の音楽監督セルゲイ・クーセヴィツキーが、自身の音楽監督就任20周年と亡き妻への追悼の意を込めて、クーセヴィツキー財団を通じてバルトークに作曲を依頼したものです。当時、アメリカへの移住後、バルトークは創作意欲を失いかけていましたが、この委嘱がきっかけとなり、再び作曲に情熱を燃やすことになります。

ヨーゼフ・シゲティやフリッツ・ライナーらの尽力も、バルトークの創作活動を支えました。彼らはバルトークが経済的に困窮していることを知り、クーセヴィツキーにバルトークの作品を演奏してもらうよう働きかけました。

クーセヴィツキーからの委嘱は、バルトークに1000ドルの委嘱料とともに届けられました。当初、バルトークは体力的な不安から作曲を躊躇しましたが、クーセヴィツキーの熱意に打たれ、最終的に委嘱を受けることを決意しました。この出来事が、バルトークに新たな生命力を与えたと言われています。

初演と改訂

1944年12月1日、セルゲイ・クーセヴィツキー指揮、ボストン交響楽団によって初演されました。バルトーク自身もリハーサルに参加し、細部にわたって指示を出したと言われています。初演は大成功を収め、この曲はバルトークの代表作として、瞬く間に世界中で演奏されるようになりました。

1946年には、バルトーク自身が初演の反省やクーセヴィツキーの意見を踏まえ、改訂版が出版されました。特に終楽章のコーダ部分が大幅に変更され、より壮大なフィナーレを迎えるようになりました。現在では、改訂版が広く演奏されていますが、小澤征爾など、改訂前の版を録音している演奏家もいます。

楽曲構成

この協奏曲は、5つの楽章から構成されています。

第1楽章 Introduzione (序章)：神秘的な雰囲気を持つ序奏から始まり、フーガ風の激しい主部へと展開します。
第2楽章 Presentando le coppie (対の提示)：対になった木管楽器が、ユーモラスな旋律を奏でます。中間部では、金管楽器による静かなコラールが印象的です。
第3楽章 Elegia (悲歌)：バルトーク独特の「夜の歌」であり、アーチ形式で構成されています。バルカン民謡を思わせる旋律も登場します。
第4楽章 Intermezzo interrotto (中断された間奏曲)：ショスタコーヴィチの交響曲第7番からの引用が特徴的で、ユーモラスな楽想と美しい旋律が交錯します。
第5楽章 Finale (終曲)：ホルンの印象的なユニゾンで始まり、ヴァイオリンによる無窮動風の旋律が駆け巡ります。フーガ風に構成された中間部を経て、華やかな終結を迎えます。

楽器編成

フルート3（うち1はピッコロ持ち替え）
オーボエ2
クラリネット3（うち1はE♭クラリネット持ち替え）
ファゴット2
ホルン4
トランペット3
トロンボーン3
チューバ
ティンパニ
大太鼓
小太鼓
シンバル
トライアングル
チェレスタ
ハープ
* 弦五部

演奏の難易度と人気

「管弦楽のための協奏曲」は、演奏難易度が非常に高い作品として知られていますが、その音楽的な魅力から、国際指揮コンクールの課題曲としても頻繁に選ばれています。若手指揮者にとっては、自身の力量を試す試金石のような存在と言えるでしょう。

作曲者自身によるピアノ独奏版も存在し、指揮のレッスンにも活用されています。この作品は、オーケストラの各楽器の特性を最大限に引き出し、高度な技巧と豊かな音楽性によって、聴衆を魅了し続けています。

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