管理ライン

管理ライン（LoC）とは

管理ライン（Line of Control, LoC）は、インドとパキスタンが実効支配するカシミール地方の境界線です。かつてジャンムー・カシミール藩王国であった領域を二分しており、法的な国境ではありませんが、事実上の国境として機能しています。

歴史的背景

元々は停戦ライン（Cease-fire Line）と呼ばれていましたが、1972年のシムラ協定によって「管理ライン」と再定義されました。インドが実効支配している地域は、現在のジャンムー・カシミール連邦直轄領とラダック連邦直轄領であり、パキスタンが実効支配している地域は、アザド・[[カシミール]]とギルギット・バルティスタン州に分かれています。管理ラインの最北端はNJ9842とされ、そこから南は、正式なインドとパキスタンの国境線に繋がっています。

カシミール分断の影響

管理ラインはカシミールを二分し、かつてカシミール渓谷への唯一の出入口であったジェラム渓谷ルートを閉鎖しました。この領土区分は、多くの村を分断し、家族の離散を生み出すという悲劇をもたらしました。現在もなお、その影響は続いています。

他の境界線との関係

インドと中国の支配地域を分ける実効支配線（LAC: Line of Actual Control）は、管理ラインの東側に位置しています。これらの境界線は、複雑な地政学的状況を反映しており、この地域における緊張の根源となっています。

元アメリカ大統領のビル・クリントンは、この地域を世界で最も危険な場所の一つと評しました。

両国の主張

パキスタンは、カシミール全域を自国の領土と主張しており、1933年の「パキスタン宣言」では、ジャンムー・カシミール藩王国をムスリムが多数を占める地域として、パキスタンの構成要素であると示唆しています。一方、インドは、ジャンムー・カシミール藩王国の君主が1947年にインドへの帰属文書に署名したことを根拠に、カシミール全域がインド領であると主張しています。

インドによる障壁の建設

インドは、管理ライン沿いに全長740キロメートルのうち550キロメートルの障壁を建設しました。この障壁は、インド側の支配地域から約140メートル離れた場所に設置され、分離主義過激派の侵入と武器の密輸を防ぐことを目的としています。障壁は、高さ2.4～3.7メートルの二重柵と蛇腹形鉄条網、電気柵で構成され、モーションセンサー、熱感知装置、照明、警報装置が備えられています。また、障壁のない場所には数千もの地雷が埋設されています。この障壁の建設は、2004年後半に完了しました。

インド軍によると、この障壁によって過激派の侵入が80%減少したとされています。しかし、パキスタンは、この障壁が二国間協定と国連決議に違反していると批判しています。一方、欧州連合は、インドの障壁設置を「テロリストの侵入を制御する技術的手段の改善」として支持し、管理ラインはシムラ協定によって定義されていると指摘しています。

管理ライン上の通過点

現在、管理ライン上には3つの主要な通過点が存在しています。

1. チャコティ/サラマバード: バラマラ県とウリの間にある道路上に位置し、印パ間の貿易と旅行の主要ルートです。インド側には銀行施設と貿易円滑化センターが計画されています。サラマバードは「平和の橋」を意味し、2005年のパキスタン地震後にインド軍が再建した橋がある場所です。このルートは、61年間閉鎖された後、2008年に開放されました。シュリーナガルとムザファラバードを結ぶバスもこの地点を通過します。
2. タトリノート/チャカンダバグ: コトリとプーンチ県を結ぶ道路上にあり、貿易と旅行の主要ルートです。インド側では、貿易業者のために銀行施設と貿易円滑化センターが計画されています。印パの治安部隊間の会合もこの場所で開催されます。
3. チリアナ/ティートワル: ムザファラバードとカップワーラを結び、ニーラム川を横断する通過点です。他の2つの通過点とは異なり、貿易ではなく人々の移動にのみ利用され、通常夏季にのみ開かれます。

その他の通過点として、ピール・パンジャル山脈のハジピル峠やタタパニー近くにも存在しますが、現在は使用されていません。

参考資料

- Ranjan Kumar Singh, Sarhad: Zero Mile, (Hindi), Parijat Prakashan, ISBN 81-903561-0-0

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