箱館府

箱館府：蝦夷地を治めた短命な行政機関

1868年（明治元年）から1869年（明治2年）7月までのわずか1年余り、蝦夷地（現在の北海道）の統治を担った箱館府。その短い歴史は、激動の時代を反映した複雑さと興味深さで満ち溢れています。箱館裁判所の改称から始まり、開拓使への移行を経て廃止されるまでの経緯、戊辰戦争への関与、そして戦後の復興における役割など、多角的に見ていきましょう。

箱館府の設立と初期の活動

箱館府は、府[[藩県三治制]]導入の一環として、1868年閏4月24日、箱館裁判所の改称によって誕生しました。初代府知事には清水谷公考が任命されました。しかし、箱館府の設置は、実際には5月以降となり、それ以前は箱館裁判所と併用されるなど、移行時期には曖昧な点も残されています。

発足直後、箱館府は民衆の教化を目的とした布告を発布しました。具体的には、「人倫の道を尽くして禁制の邪教に迷わざること」といった内容で、社会秩序の安定を図ろうとしていた様子が伺えます。また、本州からの米の供給が滞っていた当時の蝦夷地において、米の輸送手段確保も重要な課題でした。

さらに、北蝦夷地（樺太）には権判事の岡本監輔を派遣し、久春古丹に公議所を設置するなど、積極的な外交・行政活動も行っています。しかし、箱館府に着任した高官は少数であり、旧幕府の役人が下級官吏として多数採用されるなど、組織運営上の課題もあったと考えられます。

戊辰戦争と箱館府

箱館府は、本格的な施策を打ち出す前に、戊辰戦争の渦中に巻き込まれました。蝦夷地には、松前[[藩]]、盛岡[[藩]]、仙台[[藩]]、会津[[藩]]、弘前[[藩]]、庄内[[藩]]など多くの藩の領地があり、警備兵力もこれらの藩が提供していました。奥羽越列[[藩同盟]]の結成という危機的状況の中でも、清水谷府知事らは、兵力を持たない状況下で奥羽諸藩からの攻撃を回避し、5月末には軍需物資を秋田方面へ輸送することに成功しています。

7月～8月には、東北諸藩が次々と蝦夷地を撤退する中、松前[[藩]]だけが兵力を残していました。箱館府は官吏と徴募兵で府兵二個小隊を編成しましたが、その戦力は決して十分とはいえませんでした。

奥羽の戦線が終結すると、榎本武揚率いる旧幕府艦隊が蝦夷地へ到来。箱館府の官吏は、諸藩兵と共に本州へ退避しました。

箱館戦争と戦後処理

清水谷府知事は青森口総督を兼務し、箱館戦争を戦い抜きました。1869年5月17日、箱館へ入府し、府務の再開を宣言。戦後の箱館府は、焼失した町や村への支援、負傷者への救済、困窮者の免税、榎本政権発行通貨の回収など、戦後処理に追われました。

開拓使への移行と箱館府の廃止

戦争中から政府は蝦夷地統治機構の刷新を進めており、1869年7月8日、箱館府に代わる組織として開拓使が設置されました。しかし、人事面での遅延により、開拓使が本格的に活動を開始したのは7月24日以降で、新職員の着任は9月までずれ込みました。この間の7月17日から24日までは、箱館府は一時的に「箱館県」と改称されました。そして、開拓使の発足をもって、箱館府は歴史の幕を閉じました。

箱館府の人事と組織

箱館府の要職には、清水谷公考（府知事）をはじめ、井上石見（府判事）、松浦武四郎（府判事）などが名を連ねています。井上石見は択捉島視察の帰途に遭難、行方不明となっています。

箱館府の組織は、民政方、文武方、外国方、物産方、勘定方、監察方、執達方から成る官制（慶応4年5月）から、議事局、施事局、庶務局、外国局、刑法局、会計局（明治2年3月30日）へと変遷していきました。

まとめ

箱館府は、わずか1年余りの短い期間でしたが、蝦夷地の統治、戊辰戦争への対応、そして戦後処理という、重要な役割を担いました。その歴史は、時代の激動を反映しており、日本の近代化過程を理解する上で重要な一端を担っています。 箱館府の存続期間は短かったものの、その活動は蝦夷地、ひいては日本の歴史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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