篠遠喜彦

篠遠 喜彦（しのとお よしひこ）

1924年9月3日 - 2017年10月4日

日本生まれの考古学者・人類学者。主にアメリカ合衆国を拠点に活動し、ハワイ州ホノルルのバーニス・P・ビショップ博物館に長く所属しました。太平洋全域、特にハワイ諸島やフランス領ポリネシアにおける人類学的な調査や発掘で国際的に知られています。

生い立ちと研究への道

篠遠喜彦は1924年、東京に生まれました。父は著名な遺伝学者である篠遠喜人です。若い頃から研究の道を志し、1954年にはカリフォルニア大学への留学を目指してアメリカ合衆国本土へ向かう途中、ハワイに立ち寄りました。そこでハワイ島におけるビショップ博物館の考古学調査を手伝ったことを機に、そのまま同博物館で研究活動に従事することになります。その後、ハワイ大学で学びを深め、ポリネシア考古学研究の中心人物となっていきました。

主要な研究活動と業績

篠遠の研究は広範に及びますが、特に重要な成果の一つとして、出土した多数の釣り針を分析し、独自の編年手法を開発したことが挙げられます。この手法を用いることで、ポリネシア域内における人々の文化の広がり方や、島々間の相互交流関係を科学的に解明しました。この功績により、1962年には「ハワイ諸島における釣針の編年及びこれとポリネシアにおける釣針の発達との関係」と題した研究で、北海道大学から理学博士号を授与されています。

また、特定の地域での集中的な調査も行いました。1964年から1965年にかけては、マルキーズ諸島のハネで大規模な発掘調査を実施。この際に一万二千点を超える鳥類の骨を発見・収集し、その大部分がミズナギドリやウミツバメなど七種類ほどの海鳥のものであることを明らかにしました。

フランス領ポリネシアのフアヒネ島では、実に40年もの長きにわたり調査を続けました。この島では、祭祀に用いられたマラエを含む古代集落マエヴァの復元と、貴重な遺構の保全に尽力しました。特に1977年には、外洋航海に使われた大型カヌーの遺物という、太平洋における航海技術の歴史を物語る極めて重要な発見をしています。

フアヒネ島以外にも、ソシエテ諸島、マルキーズ諸島、トゥアモトゥ諸島など、ポリネシアの主要な島々で精力的に調査を実施。各地の集落跡や出土品、人々の移住の経路、そして広大なポリネシア文化圏全体の結びつきについて深く研究を進め、この地域の古代史解明に大きく貢献しました。

関連する事物

篠遠の研究業績とその貢献は、動植物の名前にも残されています。かつてマルキーズ諸島に生息していたものの絶滅したヒインコの一種は「Sinoto's Lorikeet」（Vini sinotoi）と名付けられ、さらに園芸種のハイビスカスには「サー・ヨシヒコ・シノトー」（Sir Yosihiko Sinoto）という名前がつけられています。

家族

遺伝学者である父・篠遠喜人の他にも、家族は研究に携わっていました。妻の篠遠和子は、日系移民の歴史を専門とする歴史家でした（2013年没）。息子のアキ・シノトーもまた、父と同じくビショップ博物館に所属する考古学者として活動しています。

受賞・栄誉

長年の功績に対し、国内外で数多くの栄誉を受けています。1995年には日本の勲五等双光旭日章を受章。1996年にはポリネシア古代文化研究における顕著な業績が認められ、吉川英治文化賞が贈られました。また、2000年にはフランス領ポリネシアからタヒチ・ヌイ勲章シュヴァリエ章を、2002年には本派本願寺ハワイ別院よりハワイ人間州宝として表彰されています。

おもな著作・メディア出演

研究成果は多くの論文や書籍として発表されており、日本語の一般書も刊行されています。荒俣宏氏との共著による『楽園考古学』や『南海文明グランドクルーズ』は広く読まれました。

また、その活動はメディアでも取り上げられ、2004年にはNHKのドキュメンタリー番組「遠くにありて にっぽん人」で、ポリネシアでの調査活動が紹介されました。

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