米沢商会ビル

米沢商会ビル：震災の記憶を伝える遺構

岩手県陸前高田市に位置する米沢商会ビルは、東日本大震災の脅威と教訓を後世に伝える貴重な震災遺構です。震災で甚大な被害を受けた多くの建物が解体される中、このビルは数少ない、公的な支援を受けずに民間の手で保存・維持されている遺構として、その存在意義を際立たせています。

米沢商会とは

震災前、米沢商会ビルは、包装資材の卸売・小売店「パッケージプラザ ヨネザワ」として、地域の人々に親しまれていました。1979年に創業した家族経営の会社で、包装資材に加え、製菓材料、事務用品、生活雑貨なども扱い、地域に密着した経営を行っていました。創業者の代から製菓機器の修理も請け負い、顧客は広範囲に及びました。

震災後、創業者の長男である店主は、2012年に市内の仮設商店街で営業を再開し、2020年3月には市内中心市街地に新たな店舗を構え、事業を再建しました。

震災の記憶

2011年3月11日、東日本大震災が発生。店主は店舗近くの倉庫で作業中に被災しました。津波警報を聞き、店舗に残っている人がいないか確認に戻ったところ、津波に遭遇。屋上に避難し、煙突にしがみつき九死に一生を得ました。しかし、避難していた両親と弟は、津波の犠牲となりました。

津波の直撃を受けたビルは、窓が割れ、壁や天井も損傷しましたが、倒壊は免れました。周囲の建物が次々と解体される中、店主はビルの処遇について悩みました。しかし、妻の「一度壊したら同じものは二度と建てられない」という言葉や、地域住民からの感謝の声、そして何よりも、ビルのおかげで生き延びることができたという思いから、ビルを保存することを決意しました。

震災遺構としての保存

店主は、ビルの維持費用や固定資産税などを自費で負担し、管理を続けています。復興工事により、ビルの周囲はかさ上げされましたが、ビルの敷地は震災当時の高さのまま残されています。

店主は店舗経営の傍ら、大学や企業の研修などの見学者をビルに受け入れ、自ら語り部として震災当時の体験を伝えています。また、店主から震災の教訓を教えられて育った娘は、小学生の時に陸前高田市が養成する「防災マイスター」講座を受講し、同資格を特別に認定されました。

米沢商会ビルは、震災の記憶を風化させず、教訓を未来に伝えるための貴重な遺産です。店主の語り部としての活動を通して、多くの人々が震災について学び、防災意識を高めることが期待されます。

関連施設

高野会館: 宮城県南三陸町にある震災遺構。米沢商会ビルと同様に民間によって保存・維持されています。
たろう観光ホテル: 岩手県宮古市にある震災遺構。当初は民間が保有する施設でした。

外部リンク

パッケージプラザ ヨネザワ: 米沢商会現店舗のページ
津波の記憶 伝えたい 米沢商会ビル: NHKによるVR震災の記憶。ビル内部をVRで見学可能。津波の際に店主が撮影した映像も掲載されています。

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