米田町

米田町

兵庫県印南郡にかつて存在した町、米田町（よねだちょう）は、加古川と法華山谷川に挟まれた平地に位置していました。この町は、昭和中期に進められた市町村合併の流れの中で複雑な経緯をたどり、最終的には1956年（昭和31年）に隣接する加古川市と高砂市に分割して編入され、自治体としての歴史を終えました。

地名の由来

「米田」という地名は、古くは「米堕（よねだ）」とも記されていました。その語源には、次のような伝説が語り継がれています。藤井という船頭が、租税である米を積んで南海を航海していた際、法華山にいた法道仙人が空中に鉢を飛ばして托鉢を求めました。しかし、船頭は税として積んだ米を勝手に与えることはできないと断ります。すると、鉢が船頭のもとを離れると同時に、船に積まれた米もまた空へと飛び去ってしまいました。船頭はひどく驚き、仙人に謝罪しました。仙人は笑って許し、米を元の場所に戻しましたが、その時、一俵だけが途中で落ちてしまいました。この俵が落ちた場所が「米堕」と呼ばれるようになったと伝えられています。これは伝説上の話ですが、地名の語源「ヨネ」は砂を指し、砂堆地にあるからヨネダであるとする説もあります。

沿革

江戸時代

江戸時代、米田の地は姫路藩の領地でした。村高は「正保郷帳」では546石余（田353石余、畑192石余）、後の「天保郷帳」や「旧高旧領」ではともに831石余と記録されています。寛文年間（1661〜1672年）には、姫路藩士の加藤弥兵衛が新田開発のための検地で測量を緩め、村民に喜ばれましたが、藩主への報告を終えた帰路、責任を感じて自害したという悲話が残されています。村民は彼の徳を偲び、顕彰碑を建てたと言われ、地内にある字「定免」はこの出来事に由来すると考えられています。また、米田河畔は観月を楽しむのに適した場所として知られ、砂部村の俳人である喜多順庵や米田村神宮寺の住職（栗本玉屑）、松岡青蘿らが観月亭を営んでいたと伝えられており、現在も俳句が刻まれた観月碑や観月腰掛石が残っています。

米田村時代

1889年（明治22年）の町村制施行に伴い、印南郡内の米田村、米田新村、古新村、塩市村、島村、神爪村、平津村、船頭村が合併し、新たに印南郡米田村が誕生しました。旧村名はそれぞれ大字として引き継がれ、村役場は大字米田に置かれました。教育面では、1872年（明治5年）に西蓮寺の庫裏を校舎として龍東小学校（現在の高砂市立米田小学校の前身）が創立されています。交通では、1900年（明治33年）に山陽鉄道（現在のJR西日本山陽本線）の宝殿駅が開業し、地域の発展に寄与しました。また、1918年（大正7年）に始まった加古川の河川改修工事は1933年（昭和8年）に竣工し、これにより加古川から分流していた洗川は閉鎖され廃川となりました。産業では、1919年（大正8年）に日本毛織印南工場が操業を開始し、工場や社宅、休養施設などが次々と建設され、地域の雇用と発展を支えました。

米田町時代

1928年（昭和3年）には町制が施行され、米田町となりました。戦後、教育施設の拡充も進められ、1947年（昭和22年）には米田町立米田小学校に米田中学校が併設されました。しかし、翌1948年（昭和23年）には、米田町と東神吉村、西神吉村が共同で設立した印南郡米田町他2ケ村学校組合立宝殿中学校（現在の高砂市立宝殿中学校）が、旧洗川の敷地に開校しています。

分割合併

経済的にも豊かで早くから町制を敷くなど、印南郡北中部の中核として栄えた米田町でしたが、昭和期の市町村合併を巡る問題では、複雑な住民感情と周辺自治体の動きに翻弄されることになります。戦前から東神吉村や伊保村との合併協議が行われていましたが、いずれも不調に終わっていました。合併の機運が高まるのは、戦後GHQの意向を受けた動きからです。1950年（昭和25年）、加古郡加古川町、印南郡米田町・東神吉村・西神吉村の4町村は合併の仮調印をいち早く行いました。加古川を挟んで隣接し、ともに日本毛織の工場があったことから結びつきが強かったことが背景にあります。しかし、早期の市制施行を目指し、加古川左岸地域も含めた広域合併を望む加古川町に対し、これを嫌った米田町は態度を硬化させ、この合併は中止となります。加古川町は左岸地域との合併を進め、同年6月に加古川市を成立させました。この破談を見た高砂町は米田町への働きかけを強めますが、当時の高砂町は荒井村、伊保村、曽根町との合併を優先しており、この時点での進展はありませんでした（高砂市の成立は1954年7月）。

1953年（昭和28年）末、米田町協議会は高砂町など4町村との合併に同調する方針を決定します。これに対し加古川市は、東神吉村、西神吉村、そして米田町への合併申し入れを行い、対応を迫ります。米田町は高砂側との合併方針を既定路線として協議を進めようとしましたが、県は米田町の動きが県の合併計画に反するとして認めず、計画は頓挫しました。

1954年（昭和29年）には、県の地方事務所が印南・加古郡を6ブロックに分ける合併案を示し、米田町を含むブロックは加古川市との関係が密接であるとして、米田町を中心とした新たな市の建設を目指す案が示されましたが、米田町南部が高砂市との合併を強く希望しているという留保がつき、結局県の計画通りには進みませんでした。同年11月には、船頭地区の住民が県の計画に沿った米田ブロックでの合併を目指して「四カ町村合併促進同盟会」を結成しましたが、町全体の方針は変わらず、船頭地区は東神吉・西神吉村との分町合併、さらには加古川市との合併運動へと動いていきます。米田町長は船頭地区の動きを、古くからの住民を無視するものとして批判し、町内の対立は深まっていきました。

1955年（昭和30年）には、加古川市が東神吉村・西神吉村へ、高砂市が米田町・阿弥陀村へそれぞれ合併の申し入れを行います。町議会では船頭地区の分町要求は否決されたものの、高砂市からの申し入れについては住民投票にかけることが僅差で可決されました。翌1956年（昭和31年）1月の住民投票では高砂市との合併賛成が多数を占めましたが、これはかえって反対派の強い反発を招きました。県も住民投票の結果のみで合併を認めない姿勢を示したため、混乱は続きます。町村合併促進法の期限が迫る中、県が調停に乗り出し、同年8月には県の主導で加古川市と高砂市の間で米田町の分割合併に関する合意がなされました。この時、米田町内は「分町して加古川市へ」「分町して高砂市へ」「分町絶対反対」と三派に割れ、独自の対案をまとめられない状況でした。同年9月、兵庫県合併審議会の裁定により、米田町は高砂市に合併するが、船頭・平津の二部落は加古川市に編入するという最終決定が下されました。両市町の議会がこれを受け入れ、同年9月30日、米田町は加古川市と高砂市に分割合併し、その歴史に幕を閉じました。

町内をまとめることができなかった米田町は、周辺自治体からの求心力も失い、結果として米田ブロック内での連携も崩壊しました。分割合併後も、小学校の運営や境界線変更を巡る混乱は続き、米田町の合併を巡る経緯は後に「合併失敗地区」「米田の二の舞を踏むな」と評されることになります。

教育

小学校：米田町立米田小学校
中学校：印南郡米田町他2ケ村学校組合立宝殿中学校

交通

鉄道：国鉄山陽本線宝殿駅
主な道路：国道2号、兵庫県道391号、兵庫県道43号、兵庫県道393号、兵庫県道387号

主な寺社

神社：米田天神社（加古川市加古川町木村の泊神社の分社で、宮本武蔵の養子である宮本伊織が再建したとされる）
寺院：仏乗山西蓮寺（浄土真宗本願寺派、かつて寺子屋があった）、神宮寺（薬師堂、かつて米田天神社の神宮寺、宮本伊織寄贈の鰐口がある）

現在

旧米田町の地域は、現在は加古川市加古川町の一部（船頭、平津など）と高砂市の一部（米田町米田、米田町古新など）となっています。

加古川市立川西小学校は、分割合併により加古川市に編入された船頭・平津地区を校区としています。

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