米韓自由貿易協定

米韓自由貿易協定（KORUS FTA）とは

米韓自由貿易協定（べいかんじゆうぼうえききょうてい、英: U.S.-Korea Free Trade Agreement, KORUS FTA）は、アメリカ合衆国と大韓民国との間で締結された自由貿易協定です。略称は米韓FTA。

協定の概要

2006年2月に交渉が開始され、2007年4月1日に締結、同年6月30日に調印されました。その後、追加交渉が行われ、2010年12月初旬に署名されました。

米国では、協定を実施するための国内法として米韓国自由貿易協定実施法が制定され、2011年10月21日に大統領の署名により成立しました。この法律の102条では、国内法優先の原則が規定されています。

一方、韓国では、国会での批准同意案の審議において野党の激しい反対があり、2011年10月28日には反対デモ隊が国会に乱入する事態も発生しました。しかし、同年11月22日には議長職権で批准同意案が本会議に上程され、可決されました。

協定は2012年3月15日に発効し、5年以内に95％の品目に対する関税が撤廃されることになりました。また、保険部門における郵政改革も規定・実現され、金融商品の販売規制が強化されました。

投資家対国家の紛争解決（ISDS条項）

米韓FTAには、投資家対国家の紛争解決（ISDS条項）と呼ばれる条項が含まれています。これは、締約国政府と外国企業や投資家との間に紛争が生じた場合、その締約国の裁判手続きではなく、投資紛争解決国際センター（ICSID）に提訴できるとする規定です。

また、米韓FTAでは、繊維品目のセーフガードに加え、経済危機に瀕した場合には、韓国は外貨の輸出入に対し一時的にセーフガードを発動できることとされました。セーフガードとは、特定の品目の輸入が急増し、国内産業が打撃を受けることを予防するための措置です。

ラチェット規定

協定には、「ラチェット規定」と呼ばれる条項も盛り込まれています。これは、締約国が一旦市場を開放すると、その後規制を強化することが許されないとする規定です。これらの条項は、韓国国内では「毒素条項」と呼ばれ、警戒されています。

環太平洋戦略的経済連携協定（TPP）との類似性

米韓FTAは、環太平洋戦略的経済連携協定（TPP）と多くの類似点を持っています。物品市場アクセス、原産地規則、貿易円滑化、衛生植物検疫（SPS）、貿易の技術的障害（TBT）、貿易救済、政府調達、知的財産権、競争政策、越境サービス、商用関係者の移動、金融サービス、電気通信、電子商取引、投資、環境、労働、制度的事項、紛争解決など、TPPの交渉分野に相当する章が米韓FTAにも存在します。

交渉内容等の守秘義務が課されていた点も類似しています（米韓FTAは締結後3年間、TPPは発効後または交渉最後の会合後4年間）。

毒素条項とその反論

米韓FTAには、韓国国内で「毒素条項」と呼ばれる条項が含まれていると主張されています。これに対し、韓国政府は以下のように反論しています。

サービス市場のネガティブリスト: 開放範囲は留保表で制限される。
ラチェット条項: 適用は留保表で限定される。
未来最恵国待遇条項: 適用は留保表で制限される。
ISDS手続き: 国際仲裁機関に訴えれば公平である。
間接収容による損害補償: 「相当程度の剥奪」がなければ間接収容にならない。また、「正当な」公共福祉のための措置は間接収容にならない（司法機関へ判断を委任）。
非違反提訴: 原告に厳しい立証責任が課される（制度が利用されにくい）。
政府の立証責任: 原告に立証責任がある（どちらも原告になりうるから公平）。
サービス非設立権: 留保表で制限される。
公企業完全民営化および外国人所有持分撤廃: 米韓FTAで直ちに外国人持分上限が変わることはない。
知的財産権直接規制条項: 条文がない。
金融および資本市場の完全開放: もともと開放的。政策で調整可能。
再協議不可条項: 条文がない。

ISDS条項に基づく賠償請求の事例

2018年4月13日、アメリカの投資企業エリオット・マネジメント社は、韓国法務部にISDS条項に基づく仲裁意向書を提出しました。これは、2015年のサムスン物産と第一毛織との合併において、エリオット・マネジメントが反対したにもかかわらず、当時の朴槿恵政権が合併を推進したことによりサムスン物産の株価が下落したため、株価下落の損害賠償として7億7千万ドルを韓国政府に求めたものです。

トランプ政権下の見直し

2017年にドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領に就任すると、メキシコとならび韓国との間の貿易不均衡状態を指摘し、米韓自由貿易協定の見直し、停止に言及しました。2018年3月27日には、米韓FTAの見直しの中で通貨安誘導を禁じる為替条項の初導入で合意したと発表されました。2018年9月24日に、米韓両国は、米韓FTAを改正する議定書に署名し、改正議定書は、2019年1月に発効しました。

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