紀友則

紀友則：才能溢れる歌人、そして『古今和歌集』の編纂者

紀友則（きの とものり）は、平安時代前期を代表する歌人であり、官人として活躍しました。宮内権少輔・紀有友の子として生まれ、六位・大内記の官位にまで昇進しています。36歌仙の一人にも数えられており、その名は後世にまで名を残しています。

40歳頃までは無官でしたが、卓越した和歌の才能を持ち、多くの歌合に参加し頭角を現しました。その才能は、朝廷でも認められ、寛平9年（897年）に土佐掾に任ぜられ、官界入りを果たします。その後、昌泰元年（898年）には少内記、延喜4年（904年）には大内記へと昇進し、着実に地位を上げていきました。

紀友則は、紀貫之、壬生忠岑らと共に『古今和歌集』の編纂に携わったことで知られています。この『古今和歌集』は、日本の和歌を代表する勅撰和歌集であり、その編纂に貢献したことは、友則の大きな功績と言えるでしょう。しかしながら、彼は『古今和歌集』の完成を見ることなく、この世を去りました。同歌集巻16には、友則の死を悼む紀貫之と壬生忠岑の歌が収められており、彼らが友則をいかに高く評価していたかがわかります。

友則の歌は、『古今和歌集』に45首をはじめ、『後撰和歌集』『拾遺和歌集』など、複数の勅撰和歌集に計64首もの作品が収録されています。彼の優れた歌の才能が、いかに広く認められていたかがわかります。また、私的な歌集『智則集』も存在したと伝えられています。

数々の逸話も残されています。例えば、寛平年間に行われた禁中の歌合での出来事です。友則は、「初雁」という秋の題で詠むことになりました。彼が詠んだ歌は、「春霞かすみて往にし雁がねは今ぞ鳴くなる秋霧の上に」というものでした。「春霞」という初句に季節のずれを感じて周囲は笑いましたが、続く句によって見事に秋の情景が表現され、周囲は感服したと言われています。この歌は、友則の出世のきっかけになったとも伝えられています。なお、この歌は『古今和歌集』では作者不詳とされています。

友則の代表作として広く知られているのが、「久方の ひかりのどけき 春の日に しづ心なく 花のちるらむ」です。この歌は、国語の教科書の教材として採用されるなど、現代でも広く親しまれており、百人一首の中でも最も有名な歌の一つに数えられています。この歌には、春の日の穏やかな光と、はかない花の命の対比が美しく表現されています。

紀友則は、40歳を過ぎてから官界入りし、華々しい経歴を歩んだわけではありませんでしたが、優れた歌の才能で後世に名を残す歌人となりました。『古今和歌集』の編纂への貢献、そして数々の名歌を残した彼の業績は、日本の文学史において重要な位置を占めています。彼の生涯は、才能と努力、そして時代の流れの中で生きた歌人の姿を私たちに伝えてくれます。彼の父は紀有友、子には紀清正、紀房則がいます。母については詳しい記録が残されていません。

彼の官歴は『古今和歌集目録』に基づいています。

寛平9年（897年）正月11日：土佐掾
寛平10年（898年）正月29日：少内記
* 延喜4年（904年）正月25日：大内記

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