紅い白描

『紅い白描』の概要

松本清張による長編推理小説『紅い白描』は、1961年から1962年にかけて『マドモアゼル』に連載され、1985年に中公文庫から刊行されました。物語は、美術大学を卒業した若手デザイナーの原野葉子を中心に展開され、彼女の就職先である一流デザイナー、葛山正太郎との関係に焦点を当てています。

あらすじ

物語は、葉子が葛山産業美術研究所に入所するところから始まります。葛山は「葛山調」と呼ばれる独自のスタイルで注目を集める商業デザイナーであり、葉子にとっては憧れの存在です。入社後、葉子は工房のメンバーの親切に支えられ、仕事を楽しむ日々を送ります。しかし、やがて葛山から名古屋の観光団体のポスターデザインの出張を依頼されると、事態は思わぬ方向へと向かいます。

名古屋での打ち合わせ中、葉子は中部交通の中山から不当な罵倒を受け、葛山の行動にも疑念を抱くようになります。葛山は葉子を非難することはなく、むしろ葉子の気持ちを理解しようとしますが、同僚の佐久間から葛山が何かしらの黒い策略を考えているのではないかという噂を聞きます。

さらに葉子は、葛山が知的障害を持つ少年、姉川ヒロシと会っているのを目撃し、彼との交流を通じて葛山の内面に疑問を抱くようになります。葉子は建築家の西原周一と再会し、彼と妹のさつきとの友情が深まる中で、葛山の陰に潜む本当の姿を探る決意を固めます。

ある日、姉川一家が名古屋に移住することを知った葉子は、葛山と姉川ヒロシの関係を徹底的に調査し始めます。西原兄妹や佐久間の協力を得て追跡を続けた結果、葛山の持つ隠された秘密が明らかになっていくのです。

登場人物

• - 原野葉子: 商業美術を専攻した美術大学の卒業生。デザイナーとして葛山産業美術研究所で働く。
• - 葛山正太郎: 独特なデザインスタイルで評価される商業デザイナー。国際的な舞台でもその名を轟かせる。
• - 西原周一: 大青年建築家で、葉子を中山の罵倒から助ける。
• - 西原さつき: 葉子の調査に協力する、評判のデザイナー。
• - 佐久間: 葛山工房の若手で、葉子に興味を持っている。
• - 中山喜一: 葛山のクライアントで、厳しい態度の持ち主。
• - 姉川ヒロシ: 知的障害のある少年で、葉子と友情を築く。

作品の背景

本作には、著者が小倉での生活の中で商業美術に関心を持った体験が色濃く反映されています。清張は、広告やデザインにまつわる自身の経験を基に、この作品を書き上げました。特に、彼が関与していたウィンドウディスプレイのエピソードは、葉子のデザインの仕事を通じて物語に生かされています。また、商業美術が持つ隠された側面や業界内の闇についても鋭く描写されています。

評価と影響

評論家の権田萬治によると、本作のテーマは後に清張が別の作品に引き継いでおり、推理小説としての深化を遂げています。また、デザイン業界が花形産業となっていく時代背景を映し出す作品として、グラフィックデザインのオリジナリティや業界構造の問題について強いメッセージを持つ作品としても評価されています。清張の描く芸術と人間の心理の深層は、読者に深い印象を残します。

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