紅い花

『紅い花』について

『紅い花』は、つげ義春によって1967年に発表された短編漫画で、当時の漫画雑誌『ガロ』の10月号に掲載されました。物語は、広大な自然とともに描かれたノスタルジックな少女を通して独特の叙情的な世界観を構築しています。これは、つげの代表作の一つであり、特に『ねじ式』とは対極に位置する作品として知られています。

ストーリー概要

物語は、釣り人の男性と、山奥の小さな売店で店番をしている少女キクチサヨコとの出会いから始まります。キクチサヨコは主人公に良い釣り場を紹介するため、同級生のシンデンのマサジを繋げようとします。作中では、特定の地方を示さない方言が特徴的に使用されており、物語の神秘性を際立たせています。

タイトルとなる『紅い花』は、少女が初潮を迎え、大人への一歩を踏み出すことを象徴するものです。半ば大人に成長しつつあるキクチサヨコと、彼女にいたずらをしつつも、微かな恋心を抱くもう一人の子供、シンデンのマサジとの関係が繊細に描かれています。彼らのやり取りは美しい渓流や森の風景に囲まれ、自然と微妙な恋物語がうまく融合されています。

作品の背景

この作品のインスピレーションは、千葉県夷隅郡大多喜にある旅館寿恵比楼での滞在に基づいていると言われています。17～18歳ころの当時、旅館に滞在していた少女がキクチサヨコのモデルとされ、作品の幻想的な舞台設定も作家の心の開放感から生まれたものだと考えられています。

また、作中に登場する方言や台詞も特異で、キクチサヨコはいわゆる韻を踏んだ言葉遣いをしています。この台詞は、つげの豊かな想像力により生み出されたもので、特にその中から生理の状態を表現する言葉が印象的です。「腹がつっぱる」という表現は、まさに滞在中のエピソードから着想を得ており、この独特な言葉遣いが物語の魅力の一部となっています。

あらすじ

物語は、山深い村に位置する一軒の茶店から始まります。キクチサヨコはため息をつきながら、来客を待っていました。そんな彼女の前に突然現れた釣り人は、彼女を店に招き入れます。貧しい家庭で一人で店を切り盛りする彼女の日常に、やんちゃな同級生マサジがいつものように訪れ、サヨコをからかい始めます。川岸には、紅い花が幻想的に咲き誇り、マサジはサヨコが川に入っていく姿を見つけます。

その後の展開は、マサジにとって思いもよらないものでした。流れる川の中で見つけた美しい紅い花が、彼の心に変化をもたらします。彼女の存在とその微妙な感情の絡み合いは、作品全体にわたって心に残る印象を与えます。

作品の評価

この作品は多くの評価を受けています。松岡正剛は、キクチサヨコの存在に触れ、他の美術作品との関連性を指摘し、独自の評価を与えています。また、映像化もされており、1976年4月にはNHKでドラマ化され、他の2本の作品と共に放送されました。

さらに、1993年には映画化されたり、1998年にテレビドラマとして放映されたりするなど、多岐にわたるメディアで取り上げられています。これにより、『紅い花』は今なお多くの人々に愛され続けている作品となっています。

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