紅毛城

紅毛城は、台湾新北市淡水区に残る歴史的な建造物で、その起源は17世紀に遡ります。当初はスペイン人によって「サント・ドミンゴ城」として建設され、その後オランダ人によって「アントニー要塞」として再建されました。この城は、台湾の歴史において重要な役割を果たし、様々な勢力の支配下を経験してきました。

スペイン・オランダ時代

16世紀の大航海時代、ヨーロッパ諸国は貿易利益を求めてアジアに進出しました。その中で、オランダとスペインが台湾に上陸し、それぞれ南部と北部を拠点に植民地統治を開始しました。両国は統治を強化するために港湾と城砦を建設し、スペインは1626年に基隆にサン・サルバドル城を、1628年には淡水にサント・ドミンゴ城を築きました。このサント・ドミンゴ城が、現在の紅毛城の前身です。

スペイン人は淡水を淡水河の水運を統治する拠点とし、1632年には台北盆地に勢力を拡大しました。淡水河沿岸の原住民を服従させ、淡水と基隆を結ぶ道路を建設し、交通網を整備しました。その勢力は新竹一帯まで及んだといわれています。

1642年、オランダはスペインがフィリピンでの混乱で台湾経営に集中できない状況を利用し、北部に進出しました。紅毛城は無血開城し、スペイン勢力は台湾から駆逐されました。オランダは1644年春からサント・ドミンゴ城を改築し、1646年にアントニー要塞と改名しました。漢人はオランダ人を「紅毛」と呼んでいたため、この要塞は一般的に「紅毛城」と呼ばれるようになり、現在に至っています。現存する紅毛城の大部分は、この時に建築されたものです。

鄭氏政権以降の変遷

1662年、鄭成功はオランダ勢力を台湾から駆逐し、紅毛城の修理を命じました。しかし、1683年に鄭氏政権が清朝に帰順すると、紅毛城は一時放棄されました。清朝初期に台湾北部に多くの入植者が移住し、治安維持や海防の必要が生じたため、1724年に大規模な修理が行われました。城壁や城門が追加され、統治拠点としての役割が強化されました。しかし、その後は政策の変更により、紅毛城は徐々にその防衛機能を失い、廃墟と化していきました。

紅毛城が再び注目されたのは、1858年の天津条約によって淡水が開港されたことがきっかけです。清朝が英仏連合軍に敗れたことで、淡水を始めとする複数の港が開港され、各港に各国の商社や領事館が設置されました。イギリスは、台湾北部での茶葉や樟脳の輸出増加に対応するため、1867年に紅毛城の永久租借協定を清朝と締結しました。翌年には領事館が設置され、約10名のイギリス人が居住していました。

1895年に日本による台湾統治が開始されると、1912年にイギリス政府は日本政府との間に再度租借協定を締結しました。1941年の太平洋戦争勃発により日本軍が紅毛城を接収しましたが、戦後には再びイギリスに返還されました。しかし、1972年の台英断交によりイギリス領事館は撤退し、その後オーストラリア大使館、アメリカ大使館、アメリカ在台協会によって管理が行われました。1980年、外交部の交渉の結果、紅毛城は台湾政府に返還され、1984年から一般開放されました。

国家一級古跡

紅毛城は、内政部によって国家一級古跡に指定され、紅毛城とイギリス領事部に区分・管理されています。紅毛城は軍事上の必要から建設されたため、外壁の厚さは1.9mにも及びます。敷地内にある古式大砲は、イギリス人が装飾のために持ち込んだものです。

領事館エリアは、1891年に典型的な2階建てのイギリス植民地様式で建築されました。建築資材はほとんどが台湾内で調達され、外壁には清水紅磚、屋根には閩南紅瓦が使用されています。ただし、1階の屋内にはジャワ島の建材が一部使用されています。

紅毛城は、台湾の歴史と文化を伝える重要な遺産であり、多くの人々に親しまれています。

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