樟脳

樟脳（しょうのう）

樟脳は、分子式C10H16Oで示される二環性モノテルペンケトンの一種で、一般にはカンフルやカンファーと呼ばれています。IUPAC命名法では1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-オンという名称が与えられています。この化合物はクスノキの精油の主要成分であり、その名はアジア、特にボルネオ地域に自生するクスノキに由来しています。

性質と存在

樟脳は香りが強く、融点180°C、沸点208°Cの白色半透明の結晶性物質です。この強い樹脂様の香りから、テルペノイド関連の研究で重視され、特に代表的な結晶性テルペノイドとして扱われてきました。初期の有機化学では、その多様性から精油から容易に取得できる結晶性化合物の一例として多くの研究がなされました。樟脳は多くの植物の精油から得られ、他のテルペノイド化合物と混合されることもしばしばあります。

製造

樟脳は、主にクスノキの葉や枝を利用して水蒸気蒸留によって得られます。このプロセスにより、クスノキに内在する樟脳を生成することが出来ます。天日で完全に乾燥させた後、結晶を精製することが必要です。日本国内では江戸時代から続く伝統的な製造所も存在し、最新の技術導入により、製造業者は増加しています。

化学的には、樟脳は天然のものだけでなく合成でも製造されます。合成樟脳は、α-ピネンを素材に化学的な処理を経て生成されるプロセスを経て得られ、ラセミ体的性質を持っています。

用途

樟脳はその性質から主に外用医薬品に利用され、かゆみどめや湿布薬、リップクリームなどで使用されます。また消炎作用や血行促進作用を持つため、伝統的に家庭用医薬品の一つとされ、鹿児島県では特に「白紅」という商品が知られています。過去には強心剤としても利用されていましたが、現在はその用途は減少しつつあります。

体内への吸収が容易な樟脳は、局所的な麻酔効果を発揮することがある一方で、毒性も伴います。誤って摂取してしまった場合、重篤な健康問題を引き起こす恐れがあります。そのため、摂取した場合の応急処置として牛乳を与えることは禁忌とされています。

歴史

樟脳の製法はアラビアで発明されたとされ、日本には16世紀に伝わりました。寛永14年（1637年）には薩摩藩の特産品として、中国などへ輸出され、経済的にも重要な地位を占めました。近代においては、日本は台湾でのプランテーションによって樟脳の生産大国となり、安定した供給が行われていました。現在もなお、日本の一部地域では小規模ながら樟脳の生産が行われており、歴史とともに続いています。

その他の用途

樟脳は玩具や天候予測機器にも利用されてきました。樟脳舟という玩具は水面で動く特性を持ち、19世紀にはストームグラスとして広く用いられました。これらの用途も樟脳の多様な利用方法を示しています。樟脳の化学的特性や効能についての理解は、将来的な利用方法に対する新たな道を開く可能性を秘めています。

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