紅葉狩 (能)

能楽『紅葉狩』の概要

『紅葉狩』（もみじがり）は、平維茂による鬼退治の物語を描いた能の演目であり、観世小次郎信光の作によるものです。信光は『船弁慶』や『道成寺』の原型でも知られており、本作も彼の特色あるスタイルを反映しています。この作品は、初期の登場人物が多く、ワキの積極的な関与が見られるなど、より劇的な構成を取り入れた比較的新しいスタイルを特徴としています。

登場人物

• - シテ: 紅葉見物の高貴な女性（実は鬼）
• - ツレ: 紅葉見物の美女たち
• - ワキ: 平維茂
• - ワキヅレ: 平維茂の一行
• - アイ: 美女の供者
• - アイ: 八幡宮の神
• - 作リ物: 大小前に岩山と紅葉が表現された一畳台

作品の構成

この能は、信濃国戸隠を舞台に展開されます。物語は、身分の高い上臈の女性（シテ）が侍女たちと共に紅葉を見に出かけるところから始まります。彼女たちは、絶景の中で宴を開くために、地謡の前に幕を張ります。その後、鹿狩りにやってきた平維茂一行が馬に乗り登場し、宴の様子を見に遣わされた供の者があります。美女一行は素性を明かさず、維茂は美しい舞と酒の誘惑により、前後の状況を忘れてしまいます。

美女たちが踊る中、シテは美しい舞から突然激しい急ノ舞に変わり、その姿を見せます。維茂が夢中になっている最中、美女たちは「目を覚ますなよ」と言い残し、消えてしまいます。

場面は一転し、夜の帳が降ります。八幡宮の神がアイとして現れ、維茂に鬼を討つよう告げ、神剣を授けます。維茂は覚醒し、鬼との戦いに挑むことになります。雷が轟き、炎を吐く後シテとの白熱した戦いが繰り広げられ、ついに鬼を退治することに成功します。

歴史的背景と他の作品への影響

本作は、近松門左衛門によって歌舞伎の時代物『色狩剣本地』や、九代目市川團十郎の舞踊劇『紅葉狩』としても表現されています。物語の中で、平維茂が直面する鬼女は更科姫と名乗り、彼女が持つ神剣は小烏丸とされるなどの独自の脚色が見受けられます。

原作の主要な伝承は不明ですが、『大日本史平維茂伝』や『太平記』に鬼退治のエピソードが記されています。伝説によれば、戸隠の紅葉の岩屋に鬼が隠れていたとされ、平維茂によって討たれたという故事があります。

鬼と女の関係

『紅葉狩』において特徴的なのは、多くの能で見られる鬼の存在が女性の妄念から生じるのに対し、本作では鬼自体が本体であり、美女の姿を借りている点です。この構成は、戸隠や鬼無里の鬼女伝説と関連していると考えられており、能楽がこれらの伝説に影響を与えた可能性があります。

参考情報

本作の関連作品や公演情報は、観世流の公式サイトやDVDのリリース情報を通じて知ることができます。能楽の魅力を知るための一助となることでしょう。

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