純 (焼酎)

宝焼酎「純」

宝酒造株式会社から販売されている「純（じゅん）」は、日本の甲類焼酎を代表する銘柄の一つです。1980年代に訪れた、いわゆる「ニュースピリッツムーブメント」において、サントリーが発売した「樹氷」と並び、この新しい流れを主導した商品として記憶されています。

歴史的背景と誕生

戦後の日本の酒類業界では、1960年代以降、サントリーに代表されるウイスキーメーカーが大きな勢力を拡大し、それまで主流であった日本在来の酒類のシェアは次第に縮小傾向にありました。特に焼酎は、戦後間もない頃に出回った品質の低い製品（俗称カストリ）によってブランドイメージが著しく損なわれ、その後も需要の低迷が続いていました。

このような状況下、海を越えたアメリカでは1974年にウォッカやジンといった無色透明な蒸留酒（スピリッツ）の消費量がウイスキーを上回るというニュースが伝えられ、やがてこのトレンドはヨーロッパにも波及します。世界中で「ホワイト・レボリューション（白色革命）」と呼ばれるこの無色透明スピリッツのブームが巻き起こっていたのです。

この世界的な潮流を捉え、長らく焼酎の復権を願っていた宝酒造は、一大決心をもって新たな挑戦に乗り出します。水面下で進められたこのプロジェクトから、「純」は生み出されようとしていました。

ボトルと味わいの革新

当時、日本の清酒や焼酎は主に伝統的な一升瓶で流通していましたが、この形状は時代遅れに見え、またその大容量も現代のライフスタイルにはそぐわないものとなっていました。購買層は戦後生まれの世代へとシフトしており、従来の販売手法では通用しなくなっていたため、新しい世代に焼酎をどのように魅力的にアピールするかが喫緊の課題でした。

そこで宝酒造は、海外のスピリッツブランドを参考に、一瓶あたりの容量を700mlに設定したスクエア（角）型のボトルを採用します。これにより、焼酎の見た目を一新し、よりスタイリッシュで手に取りやすいものにしました。さらに、原料に大麦やサトウキビを使用し、従来の蒸留・貯蔵方法を見直して新たに熟成を重ねた原酒を厳選。高純度の甲類焼酎とブレンドし、徹底した濾過を施すことで、かつてないほどクリアでマイルドな口当たりの焼酎を完成させました。この新生焼酎は、「純」と名付けられ、1977年に満を持して発売されます。

ファッションとしての成功、そしてスタンダードへ

「純」は発売と同時に、テレビコマーシャルを積極的に放映し、新聞や雑誌にも連日広告を掲載しました。特に、ウォッカのようにボトルやグラスを冷やして飲むといった、それまでの焼酎にはなかったモダンな飲み方を提案したことが大きな反響を呼びました。これにより、立ち飲み屋などで見られたような一升瓶から直接コップに注ぐといった古めかしい焼酎のイメージを大きく変えることに成功します。

発売から間もなく、「純」は驚異的な売上を記録し、瞬く間に日本のホワイト・レボリューションを主導する存在となりました。翌1978年には、後を追うようにサントリーから「樹氷」が発売されています。

「純」の革新的なマーケティングは続き、特にCMでは、デヴィッド・ボウイ、シーナ・イーストン、ジョン・トラボルタ、ボーイ・ジョージ、グレゴリー・ハインズ、ネルソンといった海外の著名なアーティストを多数起用しました。「東洋の美酒との出会い」をコンセプトにしたこれらのCMは、当時のMTV文化とも相まって大きな話題を呼びました（後に発売される「純レジェンド」のCMにはマドンナも出演しています）。

さらに、この成功を受けてチューハイブームが到来すると、宝酒造は1984年に250ml缶入りの「タカラcanチューハイ」を発売。これもまた大ヒット商品となり、宝酒造は日本の焼酎市場において首位の座を獲得しました。この地位は現在も維持されています。

チューハイブームが一段落した後も、「純」ブランドとその周辺は発展を続けます。ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ「椿姫」より「乾杯の歌」を武士姿のキャラクターが歌うユニークなCMとともに米焼酎「純米」を投入。1988年には、従来の「純」よりさらに熟成感を増した「純レジェンド」を発売。1990年には若者層を意識した「純アレフ」（CMソングは「たま」の「さよなら人類」）を展開。1994年には書道家の榊莫山氏が出演し、ラベルの題字も手掛けた本格米焼酎「よかいち」や「おにへい」を発売するなど、多様なラインナップを展開しました。1997年には映画監督の伊丹十三氏を起用した「亜楽-ARAKU-」といった、より付加価値の高い製品も登場しています。

「純」自体も発売30周年を迎えた際には、品質へのこだわりを訴求するキャンペーン広告を新聞に掲載したり、宝酒造と関係の深い石原プロモーション所属の俳優・タレントである渡哲也氏、舘ひろし氏、石原良純氏らがパブリシティに協力するなど、現在に至るまで同社の中心的な商品としてその存在感を示し続けています。

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