純粋経験

純粋経験

純粋経験とは、哲学用語の一つで、反省を含まず、主観と客観が未分化な状態における直接的な経験を指します。この概念は、近代西洋哲学において、ウィリアム・ジェームズ、リヒャルト・アヴェナリウス、アンリ・ベルクソンらによって用いられ、日本においては西田幾多郎が独自の解釈を加えました。

各哲学者における純粋経験

ウィリアム・ジェームズ

プラグマティズムの代表的哲学者であるジェームズは、主観と客観の分離以前の、思考と事物、主観と客観の区別がない実在世界の第一次的素材を純粋経験と捉えました。これは、主観と客観の二元論的思考を回避しようとする認識論的な試みであり、彼の根本的経験論または中性一元論の中核をなす概念です。

ジェームズは、イギリス経験主義やドイツ観念論とは異なる独自の哲学を打ち立てようとしましたが、その思想は体系的に集大成されることなく終わりました。

リヒャルト・アヴェナリウス

アヴェナリウスは、実証主義の立場から、経験概念から二元論的な仮定や形而上学的な範疇を排除し、純粋経験の次元に戻ることを提唱しました。彼にとって、純粋経験とは、反省的な付加物を含まず、内的と外的の区別もない主客未分の状態であり、哲学の出発点となる「自然的世界」であると主張しました。

アンリ・ベルクソン

ベルクソンは、直観主義の立場から、言語や概念による固定化を避け、「純粋持続」において直接的な経験を捉えることを重視しました。彼は、言葉では表現できない感情や心象をすべて取り払い、内面から深く考えることで、絶対者との交わりが可能になると考えました。そして、既存の言葉の型にはめずに「それとして経験する」ことの可能性を探求しました。

西田幾多郎

西田は、純粋経験を「事実そのままの現在意識」と捉え、唯一の実在であると考えました。彼の純粋経験は、静止的な直観ではなく、発展的な活動であり、統一と対立は相対するものではなく、統一は対立を止揚したものと解釈しました。西田は、純粋経験を通して、物質と精神、客観と主観を包括する真実在を捉えようとしました。

純粋経験の意義

純粋経験の概念は、主観と客観の二元論を超越し、より根源的な経験の探求を促すものです。各哲学者のアプローチは異なりますが、いずれも、既存の概念や思考の枠組みにとらわれず、直接的な経験から新たな認識を導き出そうとする試みであると言えるでしょう。

純粋経験の探求は、自己と世界の関係を問い直し、より深く理解するための重要な手がかりとなりえます。この概念を通して、私たちは、日々の経験をより意識的に捉え、新たな視点から世界を認識することができるようになるかもしれません。

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