素人歌舞伎

素人歌舞伎（しろうとかぶき）とは、専門の俳優ではない人々が演じる日本の伝統芸能である歌舞伎の一形態を指します。歌舞伎座などで観られるようなプロフェッショナルによる上演とは異なり、地域住民などが主体となって継承・上演している点が大きな特徴です。演目としては、特に江戸時代の物語を描いた時代物など、古典的な歌舞伎の有名な演目が取り上げられることが一般的です。

その歴史は古く、近代以前から地域の祭礼や年中行事の中で、神仏への感謝や豊作を祈願する奉納行事として行われてきたものが多く存在します。これらの伝統的な素人歌舞伎は、地域社会の結びつきを強める役割も果たしてきました。一方で、近年では地域の文化振興や観光振興、あるいは世代間の交流を目的として、新しく団体が設立され、上演が始められる事例も見られます。

素人歌舞伎はその担い手や成立背景によって、いくつかの種類に分けられます。

農民歌舞伎（農村歌舞伎、地芝居、村芝居）
江戸時代から明治時代にかけて、農村部の住民が自ら演じていた素人歌舞伎の流れを汲むものです。当時の伝統を現代に継承しているものや、一度途絶えたものを地域の人々の手で復活させたものがこれにあたります。現代においては、演じる人々の職業構成が都市部在住者中心であっても、その伝統が農村にあった場合などは農民歌舞伎として分類されることもあります。

都市型地芝居
都市部において、先に述べた農民歌舞伎のような農村部の伝統とは特に関係なく、独自に発足した素人歌舞伎を指します。都市住民が中心となって活動しており、地域文化の振興などを目的に行われることが多いようです。祭礼で曳山（ひきやま）の上で上演される「曳山歌舞伎」も、この一種と見なされることがあります。

* 子供歌舞伎（わらべ歌舞伎、稚児歌舞伎）
中学生以下の少年少女のみが演じる素人歌舞伎です。地域の子供たちが歌舞伎の稽古を通して日本の伝統文化に触れ、発表の場として上演が行われます。将来プロの歌舞伎役者を目指す子もいますが、多くは地域芸能として参加しています。

全国各地で様々な素人歌舞伎が継承・上演されています。例えば、東北地方では山形県の鮭川歌舞伎や福島県の檜枝岐歌舞伎、柳橋歌舞伎、秋田県の森岳歌舞伎など、農村部に根ざしたものが多く見られます。祭礼と結びついたものとしては、福島県の会津田島祇園祭や埼玉県の秩父夜祭り、京都府の長浜曳山祭、滋賀県の米原曳山まつりなどがあり、これらの祭礼の曳山の上で子供歌舞伎が上演されることもあります（会津田島祇園祭、秩父夜祭り、長浜曳山祭、米原曳山まつりはユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」に登録されています）。

東海地方には岐阜県の黒川の東座や鳳凰座、村国座、かしも明治座など、歴史ある農村歌舞伎の舞台や団体が多く存在します。また、愛知県豊川市の赤坂の舞台(杉森八幡社)なども知られています。関西地方では、大阪市の松尾塾子供歌舞伎のような都市型地芝居の事例もあります。

素人歌舞伎に関連する郷土芸能としては、手踊りや人形芝居などがあります。万作踊り（粉屋踊り、飴屋踊り）は、関東地方に見られる段物形式の素人歌舞伎に近い芸能と考えられています。また、東海地方に伝わる嫁獅子は、歌舞伎の女形が獅子頭を被って舞うもので、獅子舞と素人歌舞伎の要素が融合したものとされています。郷土人形芝居も、文楽系のものから一人遣いや糸操りなど様々な形態があり、地域に根ざした伝統芸能として素人歌舞伎と共通する側面を持っています。

これらの素人歌舞伎は、地域文化の多様性を示す貴重な存在であり、それぞれの土地の歴史や人々の営みの中で大切に受け継がれています。

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