細胞通過液

細胞通過液（さいぼうつうかえき）

細胞通過液（さいぼうつうかえき、英: transcellular fluid）とは、生体の体液区分のうち、細胞外液に属しながらも、特定の構造によって他の細胞外液とは明確に区別され、独自の機能を持つ一群の体液の総称です。体液は生命活動の基盤であり、細胞の内外を満たしています。大きく分けて細胞内部にある細胞内液と、細胞の外部にある細胞外液に区分されますが、細胞通過液はこの細胞外液の中に位置づけられる、やや特殊な区分と言えます。

細胞通過液が特殊とされる最大の理由は、その存在形式にあります。これらの体液は、体の表面や臓器の内腔を覆う上皮細胞の層によって形成された、閉鎖的または半閉鎖的な空間や管の中に存在しています。この上皮細胞層は、単なる物理的な隔壁として機能するだけでなく、特定の物質の能動的な輸送や分泌、吸収といった機能を担っており、その働きによって細胞通過液の組成や量を厳密に制御しています。これにより、細胞通過液は存在する場所ごとに独特な微小環境を作り出し、その場所ならではの生理機能を果たすことが可能となっています。

体液全体における細胞通過液の割合は、他の細胞外液区分である間質液や血漿と比較すると小さいです。動物種や個体差によって変動はありますが、一般的に体重の1%から3%程度を占めるとされています。しかし、その量は少なくても、生体にとって極めて重要な役割を担っているものが多数含まれます。

細胞通過液に分類される体液は様々です。代表的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

脳脊髄液：脳や脊髄を物理的な衝撃から保護し、栄養分を供給したり老廃物を除去したりする役割を持ちます。
消化管内液：唾液、胃液、膵液、腸液などの消化液や、消化吸収過程にある内容物を含み、消化吸収を助けます。
心膜腔液：心臓を包む心膜の間に存在し、心臓の拍動による摩擦を軽減します。
関節液：関節腔に存在し、関節の動きを滑らかにする潤滑油の役割を果たし、関節軟骨に栄養を供給します。
* 眼内液：眼球内の前眼房・後眼房を満たす房水や、硝子体を満たす硝子体液などがあり、眼球の形状維持、光学特性、栄養供給に寄与します。

これらの細胞通過液は、それぞれの存在する部位の機能に不可欠であり、その生成、循環、組成の異常は、対応する臓器やシステムの機能障害や病態に直結することが多いです。例えば、脳脊髄液の異常は神経系の疾患と関連し、関節液の異常は関節炎などの原因となります。

細胞通過液は、特定の上皮細胞による能動的な制御を受けている点で、血管壁や間質を自由に移動する間質液や血漿とは性質を異にします。このように、細胞通過液は、体液全体の恒常性を維持するシステムの中で、特定の局所的な環境を整備し、専門的な機能を支えるために不可欠な体液区分であると言えます。

体液全体のバランスやダイナミクスを理解する上で、細胞内液、細胞外液（間質液、血漿）、そしてこの細胞通過液といった各区分の役割と相互関係を把握することは重要です。

（参考：獣医学大辞典編集委員会編集『明解獣医学辞典』 チクサン出版社 1991年）

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