絞り加工

絞り加工：金属を叩き出す伝統と技術

絞り加工は、金属板を加工して立体的な形状を作り出す伝統的な鍛金技術です。金槌や当て金といった道具を使用し、金属板を叩きながら徐々に絞り込み、鍋や花瓶などの容器を作り出します。ここでは、絞り加工の基本から、類似の加工法との比較、機械加工との違い、そしてその魅力について解説します。

絞り加工とは

絞り加工は、金属板を金槌や木槌で叩き、当て金と呼ばれる特殊な金床を使って圧縮し、凹状に成形する技術です。この工程を繰り返すことで、金属板は徐々に絞り込まれ、最終的に目的とする形状へと近づきます。伝統工芸の世界では、「鎚起（ついき）」とも呼ばれています。

陶芸でろくろを使い粘土を絞り上げるイメージに似ており、金属板に金槌と当て金を使い、少しずつ形を作っていきます。この技術により、鍋や花瓶といった複雑な3次元形状を作り出すことが可能です。

打出し加工との違い

絞り加工とよく似た加工法に「打出し加工」があります。打出し加工は、木臼や砂袋などの窪みを利用して金属板を打ち出し、へこませることで形状を作り出す方法です。

絞り加工と打出し加工の大きな違いは、加工方法と最終的な製品の形状にあります。例えば、直径30cmの金属板を加工する場合、打出し加工では直径30cmの皿や鍋を作ることができますが、絞り加工では高さ15cm以上の花瓶を作ることが可能です。

また、加工方法の違いから、製品の厚みにも差が出ます。打出し加工は「伸ばし」の加工であるため、外周の厚さは元の金属板と同じですが、内側に向かって薄くなります。一方、絞り加工は「圧縮」加工であるため、中心部分の厚さは元の金属板と同じですが、外周に向かって厚くなり、口の部分では数倍にもなることがあります。

伝統工芸と機械加工

伝統工芸としての絞り加工は、非常に多くの時間と手間を要します。お椀ほどの大きさのものでも数千回、花瓶ほどの大きさになると数万回以上も叩き続ける必要があります。しかし、その分、職人の手仕事による温かみや独特の風合いが生まれます。

一方、機械加工では、プレス機械や旋盤を使った絞り加工が行われます。プレス絞り加工では、オス・メスの金型に金属板を挟み込み、数秒で成形します。旋盤を使ったへら絞り加工では、オス型の金型を使用し、へらで押さえつけながら絞り込んでいきます。これらの機械加工は、初期投資は大きいものの、手工業に比べて短時間で均一な製品を大量に生産することが可能です。

ただし、機械加工では、形状に制約があります。特に、プレス絞り加工やへら絞り加工では、成形後に金型を抜き出す必要があるため、口の部分が胴の部分よりも小さくなるような複雑な形状を作ることは困難です。そのため、複雑な形状を作る場合は、複数のパーツに分けて成形し、溶接やろう付けで接合する必要があります。

絞り加工の魅力

絞り加工は、金属の持つ美しさを最大限に引き出すことのできる加工技術です。職人の手によって一つ一つ丁寧に作り上げられた製品は、大量生産品にはない独特の温かみと存在感を放ちます。また、金属の種類や仕上げ方によって、様々な表情を見せるのも魅力の一つです。

現代では、伝統工芸品としての価値だけでなく、工業製品の製造にも応用されています。絞り加工の技術は、私たちの生活を豊かにする様々な製品に活かされているのです。

参考資料

楽天 - 鎌倉清雅堂 「鎚起とは」: https://rakuten.co.jp/seigado/info.html
[明日への扉 (テレビ番組)]]「#055 燕鎚起銅器職人 樋山 朗子」 YouTube: [https://m.youtube.com/watch?v=lZ9jQOnEFTc

もう一度検索